第119話騎士団無残

「王太子を討ち取ったぞ」

「近衛副団長が裏切ったぞ」

「アレン近衛騎士隊長も裏切ったぞ」

 魔族は用意周到だった。

 王を直接追うだけではなく、全ての門に伏兵を仕掛けていた。

 正攻法の侵攻だけではなく、王都内を混乱させるべく、魔族と魔族に操られた人間も潜ませていたのだ。

 その伏兵が、王太子と王太子を護る近衛騎士団を襲撃したのだ。

 まず隠形に長けた魔族が王太子を襲撃したが、王太子を殺す事が出来なかった。

 王太子の側近が優秀であったので、近衛騎士副団長しか殺せなかった。

 魔族達も、度重なる損耗で、質量共に低下していたのだ。

 そこで奇襲と同時に流言飛語を飛ばして、同士討ちを仕掛けてきたのだ。

「王太子殿下は御無事だ」

「流言飛語に惑わされるな」

「皆持ち場を離れるな」

「ふぎゃああぁ」

「裏切り者だ」

「ギリアム千騎長が裏切ったぞ」

「ベレン千騎長も裏切ったぞ」

「うぉぉぉぉ」

「住民が反乱を起こしたぞ」

 王太子の周りは混乱していた。

 近衛騎士副団長を殺した魔族が、引き続き王太子を狙って襲撃を続けたが、側近達が魔族を討ち取る事よりも、王太子の盾になる事を優先したので、王太子を殺す事が出来ないでいた。

 わずかに残っていた憑依型の魔族が、前後を護っていた王都騎士団の千騎長に憑依して、近衛騎士を狙って剣を振るった。

 大混乱する王太子警護部隊は、余りの混乱に同士討ちを始めた。

 そこに住民に紛れ込んでいた、魔族に操られた傭兵と冒険者が、王太子警備部隊に襲い掛かったのだ。

 それでなくても、近衛騎士団と王都騎士団が急遽王太子の共同警護をすることになり、反目と功名争いが心の中にあったのだ。

 統制が取れなくて当然だ。

 しかも、ベン大将軍が絡んだ粛清が直前にあった事で、この王都騎士団には団長も副団長も不在だった。

 千人いるはずの千騎長も、五人も粛清されていた。

 残った五人の千騎長の内、腕の立つ二人が憑依され、近衛騎士団に斬り込んだのだから、王都騎士団は大混乱に陥っていた。

 しかも二魔の憑依型魔族は、憑依した千騎長に一人斬り殺させたら、別の王都騎士に憑依した。

 次々と憑依する相手を変えては、近衛騎士に斬りかかったのだ。

 これによって、近衛騎士は王都騎士団の謀叛だと勘違いした。

 王太子の血路を開くべく、近衛騎士団は一致団結して王都騎士団に斬り込んだ。

 混乱の極致にあった王都騎士団は、一方的に斬り込まれた。

 中には自衛の為に、近衛騎士と斬り結ぶ王都騎士もいたが、大抵は一方的に斬り捨てられるか、王太子の警備も忘れて逃げ出すかだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る