第120話激闘近衛騎士団

「止まるな。このまま突き進め」

 先頭を走る近衛騎士隊長が、魔族に操られた住民を、馬蹄にかける決断をした。

 戦闘訓練をした軍馬は、自ら戦う。

 人間相手に逃げ出す事などなく、主人と一緒に敵と戦う。

 前脚や後脚で蹴るのはもちろん、噛みついて肉を引き千切ってしまう。

 大きく馬の歯形で肉を噛み千切られたら、止血など出来ない。

魔法の治療が出来ない限り、失血死が確定だ。

「うぉぅぉぅ」

 多くの近衛騎士が、馬から投げ出されてしまった。

 普通の人間相手なら、体当たりして、馬が負ける事などない。

 だが、魔族に操られ、後の損傷を無視して潜在能力を引き出されて人間は、馬を転倒させてしまった。

 完全装備の鎧を着た近衛騎士は、馬から投げ出されたら終わりだ。

 優秀な装備を優先的に手に入れられる近衛騎士は、落馬したからと言って立ち上がれない訳でもなければ、再び自力で鞍に乗れない訳でもない。

 だがそれは、ある程度自分の意志で転倒したり馬から降りたりした場合だ。

 完全鎧を装着し、その下に鎖帷子を着込み、鎧下用の下着を着たら、総重量は三十キログラム近くになる。

 馬上槍を手に持って、長剣や予備の剣を腰に装備すると、ゆうに四十キログラムを超える。

 そんな重い装備をした状況で、全速力で走る馬から投げ出されたら、地面に叩きつけられた時の衝撃は凄まじいモノになる。

 後続の味方の馬に蹴られたり踏みつけにされたりすれば、そこで死んでしまう事も有り得るのだ。

 もちろんそんな障害物に脚を取られたら、後続の馬も転倒してしまい、馬上の近衛騎士は投げ出されてしまう。

 最初の数騎を転倒落馬させたことで、近衛騎士団に多くの損害を与えられた。

「落ち着け」

「そうだ。各隊ごとに隊列を組みなおせ」

「立て直しが終ったら、殿下を御守りして先に進むのだ」

 近衛騎士隊長や近衛騎士長が、部隊の立て直しを図った。

「グガァァァァ」

 そんな近衛騎士達の努力をあざ笑うかのように、次々と民が襲い掛かってきた。

 人間を操ることの出来る魔族が、事前に用意していた傭兵と冒険者を使いきり、新たに住民を操り出したのだ。

 元の戦闘力は低いが、魔族によって潜在能力を引き出されているので、力だけは普段の三倍だ。

 家庭で使う包丁や石を握っただけの武装で、近衛騎士団に襲い掛かってきた。

「どけ。どかねば斬る」

 ある近衛騎士隊長は、普段の温厚な性格からは信じられないくらい、情け容赦のない殺戮を行った。

 力はあるが速さのない魔族に操られた民を、その剣技で次々と首を刎ね四肢を斬り飛ばしていった。

 その姿は阿修羅のようであった。

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