第118話王太子

「城門を空けろ」

「王太子殿下の御出陣じゃ。城門を開けろ」

 先触れの王都騎士が、城門を護る兵士に命令を伝えた。

 王太子の周りを、近衛騎士副団長に率いられた、近衛騎士五千騎弱が護っている。

「殿下。本当にベン大将軍の下に行かれるのですか」

「それ以外、助かるすべはない」

「しかしながら、ベン大将軍は、アレクサンダー王子の最側近でございますぞ」

「ならば副団長は、どこに行けば魔族の毒牙から逃げられというのだ」

「そこにいようとも、我ら近衛騎士団が御守りいたします」

「ドラゴンダンジョン騎士団が破れ、筆頭宮廷魔導師と近衛騎士隊長も太刀打ち出来なかった魔族から、余を護りきると申すのだな」

「その為に、我ら近衛騎士団は存在致します」

 王太子は、近衛騎士副団長の言葉を聞いて呆れていた。

 彼我の実力差を、この期に及んで理解していないとは、愚かにも程があった。

「分かった」

「分かって下さいましたか」

「副団長には、余直々に特別任務を与えよう」

「光栄に極みでございます」

「今言った言葉を証明し、近衛騎士団の栄光を輝かせるために、陛下を追う魔族を討ち取ってこい」

「え」

「何をしている。栄光ある近衛騎士副団長ならば、愚図愚図せずに、今の大言壮語を証明するべく、陛下の命を狙う魔族を討ち取ってこい」

「いえ、あの、その」

「配下の命を犠牲にして、自分の手柄にする心算だったか」

「そんな事はございません」

「近衛騎士昇進試験を、本当に自分の実力で突破したのなら、今の大言壮語も当然の事だろう。王家への忠誠心があるのなら、実力を出し惜しみせず、魔族に憑依された近衛騎士隊長の首を余の前に持ってこい」

 近衛騎士副団長の愚かさに怒りを感じた王太子は、ここで副団長を切り捨てる事にした。

 父王の援軍に行ってくれたら、それは望外の喜びだが、逃げ出してしまっても、今後邪魔されるよりはマシだと考えたのだ。

「殿下。近衛騎士副団長として、殿下の側を離れる訳には参りません」

「えええい、もはや御前など不要だ。この恥知らずが」

「ぎゃぁぁぁぁ」

「殿下」

 どこからともなく現れた魔族が、王太子と言い争っていた近衛騎士副団長を斬り殺した。

 剣ではなく、長く伸ばした強固な爪で斬り殺した。

 王太子の側を護っていた近衛騎士が、魔族と王太子の間に入り込み、身を挺して盾になった。

 近衛騎士副団長の存在が、王太子の隙になってしまっていた。

 最側近の中でも、特に優秀な者が、王太子の側を護っていたが、近衛騎士副団長だけだ衰えていたのだ。

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