第111話運命の対決

「やらせはせん。やらせはせん。やらせはせん。貴様ごときに。陛下を殺させはせんぞ」

「目障りです」

 魔族は、憑依した近衛騎士隊長が元々持っていた筋力に、自身の魔力と魔法を上乗せする事で、三倍の速度とパワーを発揮していた。

 デイヴィット筆頭魔導師が、魔族の討ち手に選んだ近衛騎士隊長は、近衛騎士団長が目障りに思うほどの実力者だった。

 本来なら近衛騎士団最強は、近衛騎士団長であるはずだがだ、何事にも長幼の順というモノはある。

 特に忠誠心が優先される近衛騎士団では、長年の忠勤が評価される。

 近衛騎士団長も、突出した実力があるからこそ、並みの騎士団ではなく近衛騎士団に選抜されたのだ。

 近衛騎士団内の競争に打ち勝ち、徐々に役職が上がったのも、単に名家の生まれだと言うだけではなく、それ相応の実績を、ダインジョン内の実戦訓練で出していたからだ。

 いや、並みの王都騎士団ならともかく、近衛騎士団においては、家柄での昇進は有り得ない。

 同期や先輩の騎士以上の実績を叩きだしたからこそ、騎士団長の役職を得たのだ。

 そんな騎士団長を追い落とす存在として、魔族に憑依された近衛騎士隊長が頭角を現していたのだ。

 元々が、近衛騎士団長よりも近衛騎士隊長の方が、実力があると思われていた。

 そんな近衛騎士隊長が、魔族に憑依されて三倍の能力を得たのだ。

 決死の決意をもって立ちはだかっても、圧倒的な能力差があった。

 グワシャァン

 ギャキィィィン

「うぎゃぁぁぁ」

「うぐぅぅぅぅう」

 魔族は、近衛騎士隊長が一番得意とした、大上段からの斬り落としを放った。

 近衛騎士団長は、団長の座を争って近衛騎士隊長と戦う時を想定して、近衛騎士隊長の剣技を研究していた。

 それが功を奏して、普通では対応できない剣速の斬り落としに、無意識に斬り結んでいた。

 だが、三倍の速さとパワーを得た斬り落としは、近衛騎士団長が受けきれるモノではなかった。

 近衛騎士団長が使っていた剣が、並みの剣であったなら、剣だけではなく、鎧ごと一刀両断されていただろう。

 だが、近衛騎士団長が持っていた剣は、近衛騎士団長だけが貸与される、王家が所蔵する剣の中でも五指に数えられる逸品だった。

 戦いの中で破壊された近衛騎士隊長の剣なら別だったが、魔族が無造作に殺した近衛騎士から奪った並の剣では、斬り結ぶ事も難しい差があった。

 圧倒的な剣速とパワーがあったからこそ、魔族が憑依している近衛騎士隊長の剣は、易々と切断されてしまった。

 それくらい剣の切れ味が違っていた。

 軟らかいモノが硬いモノにぶつかれば、軟らかいモノが潰れるのが道理だ。

 それが剣同士であれば、軟らかい剣が折れてしまって当然だ。

 だが、それだけでは済まなかった。

 圧倒的なパワーの差があったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る