第112話打撃戦

 最初の一撃で、近衛騎士団長の名剣が、近衛騎士隊長の剣を切断した。

 パワーに圧倒的な差があったからこそ、奇麗に両断された。

 だが、魔族が憑依した近衛騎士隊長は、この一撃で近衛騎士団長を叩き殺す心算だった。

 だから剣に込めた力は、圧倒的なモノだった。

 それがあっさり斬り落とされてしまったので、勢い余って体当たりをしてしまった。

 余りに想定外であったため、魔族も近衛騎士隊長の身体をコントロール出来なかった。

 魔族は近衛騎士隊長の身体を身体強化していたので、完全装備の近衛騎士団長に体当たりしても、怪我をするような事はないはずだった。

 ところが、普通の人間を圧し潰す程の体当たりの衝撃が、そのまま魔族が憑依した近衛騎士隊長に跳ね返ってきた。

 これが表面に対する攻撃ならば、避ける事も耐える事も出来た。

 魔族の能力で身体強化しているし、事前に魔法もかけてある。

 だが、近衛騎士団長が装備していた鎧は特別製だった。

 代々の近衛騎士団長が、身を挺して国王陛下を護る事を想定して、鎧に受けた攻撃を、攻撃した相手の魂に跳ね返すものだった。

 この攻撃が、魔族が人間界に転移して来て、初めてまともに受けた傷だった。

 表面的な傷は、憑依した人間や生き物が受けるだけで、本体である魔族は何の痛痒も感じない。

 だから、利用価値以外の問題で、魔族が憑依した人間や生き物に配慮する事などない。

「おのれ。人間の分際で、よくも我に傷つけてくれたな」

「ほざけ。化物が」

「「死ね」」

 魔族は、近衛騎士隊長の爪を強化して伸ばし、並みの剣より強固な武器と化した。

 近衛騎士団長は、ネックレスや肌着に施した、自動身体回復魔法により、半死半生の状態から立ち直り、魔族を斃そうと立ち上がった。

 魔族は、近衛騎士隊長に施した圧倒的な身体強化を生かして、近衛騎士団長が反応出来ない速度で、剣を持つ右腕を手首から斬り落とそうとした。

 圧倒的な速度とパワーは、決死の覚悟の近衛騎士団長をあざ笑うようにして、一切の反応を許さなかった。

「うぎゃぁぁぁ」

「ウグゥゥゥゥ」

 魔族は、近衛騎士団長の剣を奪いたかった。

 同時に、魔法の反射攻撃も恐れた。

 心臓を一突きにしたり、頭部を破壊したりした場合、その攻撃が己に跳ね返ると、近衛騎士隊長の身体を失うことになってしまう。

 魔族が憑依した近衛騎士隊長の爪撃は、近衛騎士隊長の右手を粉砕した。

 だが、両断までには至らなかった。

 鎧を大きく陥没させる事は出来たが、斬り落とす事は出来なかった。

 攻撃の代償として、魔族が憑依した近衛騎士隊長の爪が剥がれ、指先から鮮血が溢れ出していた。

 それほど近衛騎士団長の鎧は強固で特別なモノだった。

 さらに、魔族が憑依した近衛騎士隊長の右手首も粉砕されていた。

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