第110話逃亡
「陛下。魔族が隊長の身体を乗っ取りました。急いで御逃げ下さい」
「分かった。エドワードは大手門から逃げて、ベンの所へ迎え」
「陛下はどうなされるのですか」
「地下道を使って、アレクサンダーの所へ向かう」
「分かりました」
国王と王太子には、何の迷いもなかった。
腐った廷臣の多くは、ベンの御蔭で取り除かれていたから、逃げる邪魔をする者はいなかった。
デイヴィット筆頭魔導師が、正妃の正体を確認する決断をした時に、国王が最悪の状況を想定して、逃走の手順まで決めてあったのだ。
ここ最近の出来事は、その決断をさせるくらい以上だった。
特にベン大将軍から提出された戦闘記録と、戦闘参加者からの報告は、国王と王太子に危機感を持たせることになった。
そうでなければ、アンドルー王子や正妃が憑依される心配などしなかっただろう。
だが、国王と王太子にも判断ミスがあった。
アレクサンダー王子とベン大将軍の戦闘能力の見積もりを誤っていた。
実際に戦闘現場にいれば、そんなミスは犯さなかっただろう。
国王が、若い頃に一緒に戦っていなければ、戦闘参加者の報告を矮小に受け取るミスは犯さなかっただろう。
なまじ一緒にドラゴンダンジョンで戦い、国王自身も戦闘力に自信がったからこそ、アレクサンダー王子の画してきた能力と、ここ最近急激に高まったベンの戦闘能力を、自分基準で計ってしまっていた。
だから、悠々逃げ切れると思っていたのが、易々と魔族に追い付かれてしまった。
正妃の記憶を読み取った魔族は、秘密の地下道の存在を知っていたのだ。
国王を護ろうと、選りすぐりの近衛騎士が命懸けで戦った。
魔族は憑依型であったので、直接戦闘力はそれほど強くはなかった。
だが、長年この世界で人間に憑依してきた御陰で、色々な知識と技を習得していた。
更には人間を生贄にして、多くの魔法を手に入れていた。
いや、それだけではない。
多くの魔族の力さえ、奪っていたのだ。
ドラゴン素材の鎧は失っていたが、防御魔法を展開する事で、近衛騎士の攻撃を完全に防いでいた。
ドラゴン素材の剣は健在だったので、それを縦横に振るい、次々と近衛騎士を斬り斃した。
デイヴィット筆頭魔導師が魔族討伐の討ち手に選んだだけあって、魔族が憑依した近衛騎士隊長の強さは、他の近衛騎士を軽く越えていた。
最初の攻防で、六人の騎士が一気に斃された。
「儂が相手をしよう。陛下は急いで御逃げ下さい」
近衛騎士団長が、国王の逃亡時間を稼ごうと、死を賭して立ちはだかった。
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