第75話王都混乱
王宮内は喧騒と混乱に満ち満ちていた。
普段の荘厳な中にも優雅な趣などどこにもない。
武官の者達は唇を引き締め、厳めしい顔つきをしている。
文官は顔を蒼褪めさせ、重要書類を各部屋に運んでいる。
大会議室の中には、アリステラ王国の舵取りを担う王族と重臣に加え、王都在住の大貴族が結集していた。
「戦況を報告しろ」
「エステ王国の侵攻を迎え討った貴族連合軍が敗退いたしました」
「損害はどれくらいなのだ」
「正確な報告が届けられないくらいですので、大損害を受けたものと思われます」
「王家の監軍も壊滅したと言う事だな」
「恐らくは」
「戦闘偵察部隊は出したのだな」
「はい。敗戦の混乱の中で、バッシー騎士家が伝令を送ってくれたので、逸早く状況確認の偵察部隊を送ることが出来ました」
「そうか。その伝令から直接話は聞けるか?」
「はい。陪臣卒族故、別室に控えさせております」
アリステラ王国は、アンドルー王子のイーゼム王国侵攻に連動して、エステ王国方面にも軍を動員していた。
もっともエステ王国方面は、侵攻ではなく防衛動員だった。
ネッツェ王国方面とエステ王国方面に王家直属軍を動員しているので、何かあっても急に動かせる王家直属軍が限られてしまっているからだ。
貴族軍に動員をかける場合は、戦地に派遣するまでかなり時間がかかるのだ。
貴族には兵役の義務がある。
戦時に兵力を供出することを条件に、領地の所有を認められている。
だが古い貴族ほど、王家に対して内心叛意を持っている。
王家が建国するまでは、同等の貴族家であったのだ。
いや、中には圧倒的に王家を凌駕していた貴族家すらある。
更に言えば、由緒正しき古王家の流れをくむ貴族すら存在する。
反王家派と貴族派の貴族家が、大きく力を落としたからと言っても、無条件に王家に従うはずがない。
三ヵ国と戦争状態となれば、中には敵国に内通して利を得ようとする貴族もいる。
戦後の利権を保証して、手柄を立てる状況を与えなくてはならない。
兵役の義務があるからと言って、全て上から目線で命令を下していては、裏切りの下地を作ることになる。
直接の戦費はもちろん、領民を動員したことで起こる後々の負担も計算して、動員する兵力を算定しなければなけない。
だから今回のエステ王国方面の貴族家兵役は、純戦闘要員だけの動員命令だった。
しかも半動員命令なのだ。
普段は農民であったり職人であったりする、領民の動員は行わない。
騎士や正規兵の半数を動員し、国境警備をすると言うモノだった。
だからある意味では最強部隊でもあるのだ。
普段から軍事教練をしている武人だけの部隊だから、死傷を恐れて逃げだすものが少ない。
油断して隙を見せる可能性も低い。
そんな部隊が国境線の堅城に駐屯していたのだから、負ける可能性はないと、アリステラ王国首脳は思っていたのだ。
それが監軍の命の無事を伝える魔道具の反応がなくなり、国境警備騎士団の定時連絡も途絶えたのだから、アリステラ王国首脳部の混乱と焦りは当然といえば当然だった。
そんな状態の所に、唯一前線の状況を知る伝令が現れたのだから、身分に関係なく王国首脳部が直ぐに話を聞くべきなのだが、身分が低いと言う愚かな理由で、別室で半日も待機させられていた。
だがいよいよ前線の状況が伝えられる時がやってきた。
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