第74話孤児の想い


「おじさん、ごはんちょうだい」

「どうぞ」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 子供達がちゃんと順番を待って食事を受け取っている。

 わずかな時間しかなかったのに、よくしつけてくれたものだ。

「短時間で行儀を教えてくれたのだな」

「殿下が捕虜を助手に付けてくれたおかげでございます」

「捕虜の助手がそれほど役に立ったのか?」

「はい。悪い事をすると、魂を抜かれて人形にされてしまうと、目の前に罰を与えられた人間が現れましたから、魂を抜かれないように、いい人間になろうとしています」

「それは、余が恐怖政治を敷いたと言う事か?!」

「そうではございません。信賞必罰でございます」

 複雑だ。

 確かに信賞必罰と言えるかもしれないが、魅了は遣り過ぎだったかもしれない。

 子供達には魂を抜かれていると思われたのだな。

 確かに今の捕虜達には、自己による行動が出来ないから、魂がないのと同じだ。

 だが五万もの捕虜を、反乱の恐れがあるのに自由にさせておくわけにもいけない。

「さあ、ご飯を食べ終わったら勉強だぞ」

「はい」

「やったぁ~」

「はやくおべんきょうおしえてぇ」

「さんすうがやりたい」

「えぇ~、じのべんきょうがしたいよ」

「はい、はい、はい、静かにしなさい。ちゃんと順番に全部教えてあげます」

「「「「「はぁ~い」」」」」

「それぞれ先生について勉強するのです」

「「「「「はぁ~い」」」」」

 魅了の魔法で人を支配するのは、反省する点が多い。

 人間としてやってはいけない事をしてしまった気がする。

 だが、孤児院運営には役立っている。

 捕虜の中で勉強のできる者を選抜して、孤児院で先生をさせる事にしたのだ。

 魅了で支配して命令を与えているから、子供達を人質にして反乱を起こす心配がない。

 本当の人格がどれほど卑怯であろうと、何の心配もなく仕事を任せられる。

最も多少の手間はある。

魅了の魔法が切れてしまわないように、最大でも七日以内に魅了をかけ直さなければならない。

その場その場の直接の指示は、魅了した者に指示を受ける上官を教えておけばすむ。

この孤児院に関しては、院長が捕虜達の指揮官だ。

万が一の事を考えて、騎士達には武装をさせている。

孤児達を攫おうとする者がいるかもしれないので、剣と動きやすい革鎧を装備させているのだ。

「せんせい、おはな」

 小さい女の子が、手作りの花輪を捕虜先生の首にかけようとしている。

庭に咲いているありふれた花を集めて作ったのだろう。

 この捕虜の本性が優しい人間であればいいのだが。

「殿下、次のご予定の時間です」

「分かった」

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