第73話使者

「使者に立ってくれるか」

「御任せ下さい」

「無理はしないでくれ」

「分かっております。ですが出来る限り殿下が公爵位を授かれるように、交渉してまいります」

「爺がそう言ってくれるのは嬉しいが、爺の命に替わるモノなどないのだぞ。その事は決して忘れないんでくれ」

「有難い事でございます」

 王都からの使者に会い、アンドルー王子の活躍を聞いた。

 アンドルー王子に率いられたドラゴン魔境騎士団は、占領した民に負担をかけることも、アリステラ王国本土に負担をかけることもなく、イーゼム王国の占領を続けるために、イーゼム王国内の魔境を補給基地に使う作戦をとったようだ。

 正直羨ましい。

 民に負担をかけることもなければ、補給路を襲われる心配もないのだから、妬ましいほどだ。

 余の担当するネッツェ王国は、全土を占領しても一つの魔境もないのだ。

 ボニオン魔境一つだけの補給に頼っている身の余は、日々痩せ細る思いをしている。

 そこで爺を使者に送り、サウスボニオン魔境を含める、他の魔境への狩りの許可を嘆願することにした。

 それが無理なら、せめて五万騎の捕虜を買い取ってもらいたかった

 それも無理なら、国内貴族家に捕虜を転売する許可をもらいたかった。

 魅了の魔法の御陰で叛乱や暴動の恐れはないが、喰わせていくのが大変なのだ。

 いくら魔境とは言え、毎日毎日乱獲すれば、魔獣や魔蟲の数が激減してしまう。

 現にボニオン魔境では、狩れる魔獣と魔蟲が減ってきている。

 だがアゼス魔境は別だ!

 アゼス魔境の活性化は異常なくらいだった。

 余の魔法袋も無限と言うわけではない。

 確かに無尽蔵ともいえる容量ではあるが、無限ではなのだ。

 それに入れた物しか出てこない。

 狩って入れない限り、魔獣も魔蟲も出てこない。

 食糧に余裕があるうちに、効率的に魔獣と魔蟲を狩らなければいけない。

 その場しのぎではあるが、魅了をかけたネッツェ王国民に働いてもらった。

 と言うか、普通の生活に戻ってもらった。

 農民には農作業に戻ってもらい、少しでも収穫が増えるように努力してもらった。

 もともと食糧生産力がある国だから、戦争さえなければ、自給自足はもちろん少しは余剰食糧を収穫してくれる。

 商人にも元通り働いてもらったが、ネッツェ王国内の商業ネットワークは使えなくなっている。

 そこで旧ボニオン公爵領との商業ネットワークを新たに築くことにした。

 いや、ボニオン魔境騎士団領との商業圏を築くことにした。

 更に言えば、ボニオン魔境騎士団領を中継点とした、旧ネッツェ王国南方領とアリステラ王国の商業ネットワークを築くことにしたのだ。

 旧ネッツェ王国南方領には、良質な羊毛と毛織物があるので、それをアリステラ王国に輸出するのだ。

 それで軍資金が稼げて、捕虜の食糧を購入出来ればいいのだが、今のところいくら利益が出るか分からない。

 そこでアゼス魔境やボニオン魔境で狩った高レベル魔獣や魔蟲を売却し、安価な食糧を多量から購入する道も模索してはいる。

 だが一番いいのは、余が他の魔境で狩りをして食糧を確保する事だ。

 頼んだぞ、爺!

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