第72話選択肢


「使者も送ってまいりませんな」

「余に魅了されるのを恐れているのかもしれないな」

「イーゼム王国とエステ王国と戦っている間に、何か動きがあると思ったのですが、考え過ぎだったようでございます」

「爺の考えに間違いはないと思う」

「そういって頂ければ、防衛策を提案した身としては、気が軽くなります」

「イーゼム王国とエステ王国との戦いで、少しでも我が国が不利になったら、攻めかかって来るか、使者を送って来るかするだろう」

「消極的な策ですな」

「それほど余の魅了が恐ろしいのであろうな」

「イーゼム王国とエステ王国も、同じなのでしょうか?」

「両国ともそれなりの数の魔境があり、対抗魔法を使える者も多いだろうが、それでも危機感を持っているだろう」

「そうかもしれませんな」

「さてどうしたものだろうな」

「これ以上攻め込む気はないのですね」

「ああ、これ以上民の命を預かるのは重すぎる。出来れば魅了した者達もネッツェ王国の国王に返したいくらいだ」

「そんな事をすれば、返した民がどのような目にあわされるか、分かったモノではありませんぞ」

「分かっている。余に魅了された将兵や民が、何時謀叛を起こすか分からないと猜疑心を逞しくし、その恐怖の余り、全員を奴隷として拘束するかもしれない」

「皆殺しにする可能性すらありますぞ」

「そうだな。普通に計算が出来るのなら、十万を越える人々の力を無為に失うとは思えないが、謀叛を恐れて殺す可能性もゼロではないだろう」

「では殿下が守ってやるよりほかに、方法はないでしょう」

「しかし頭が痛い」

「食糧でございますか?」

「ああ、新たに手に入れた領地と民は、採れる農作物と消費する農作物が釣り合っているから、自給自足が可能だろうが、最初に確保した五万騎の将兵を食わしていくのが大変だ」

「魔境騎士に育てれば宜しいのではありませんか」

「ボニオン魔境で養いきれるだろうか?」

「サウスボニオン魔境はもちろん、アゼス魔境や他の魔境に派遣すればいいのではありませんか」

「父王陛下が受け入れてくれるだろうか?」

「障害となる反王家派や貴族派の力が大幅に減少しました。その御蔭でアンドルー王子を指揮官にして、ドラゴン魔境騎士団を外征に投入する余裕が出来ました」

「父王陛下と正妃殿下は、積極外征政策に切り替えられたと言うのだな。その影響で、余を含む庶子の王子が力を持つことを許容されると言うのだな」

「はい。殿下がボニオン公爵家を再興されることも、選択肢の一つとされておられるでしょう」

「それならいいのだがな」

「殿下。王都から使者が参っております」

「何の使者だ?」

「イーゼム王国と戦況報告だそうです」

「大きく動いたのか?」

「はい。アンドルー王子が魔境を確保されたとのことです」

「分かった。使者と会おう」

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