第71話アンドルー王子

 今回陛下から送られてきた使者は、礼節をわきまえた者達だった。

 内心はどう思っているか分からないが、王子に対するにしても、騎士団団長に対するにしても、非礼にならないように振舞っている。

 余の魅了に対応する為なのかもしれないが、王都騎士団員の中でも名の知れた勇士を使者にしている。

 軍使と言う事だから、肝の小さい廷臣を送る訳にもいかないのだろう。

 実際に最前線で戦った、ドラゴン魔境騎士団員から直接話を聞きたかったが、切り札のドラゴン魔境騎士団員を余の魅了で取り込まれるのを恐れたのだろうか?

「それで、アンドルー王子が勝利されたと言う事だが、味方に大きな損害は出なかったのか?」

 使者と決まりきった挨拶を交わした後で、単刀直入に聞いてみた。

「はい。アンドルー王子が率いられたドラゴン魔境騎士団は、開戦初日から破竹の勢いでイーゼム王国領に侵攻されました」

「イーゼム王国は、国境に堅固な城が築いていたはずだが、それを初日に落とされたのか?」

「はい。最初にドラゴン魔境騎士団の魔法部隊を投入され、大規模儀式魔法で一挙に敵城を破壊なされました」

「イーゼム王国は対抗魔法を使わなかったのか?」

「反撃をしてきたとの報告を受けておりますが、被害は些少だと言う事でございます」

「その城はどうしたのだ?」

「国境警備の騎士団と歩兵部隊を動員し、我が国の城として使うべく、修復に努めております」

「国境警備の騎士団と歩兵部隊が、二分されたと言う事か?」

「そうとも言えます」

「陛下やアンドルー王子の軍略に口を挟む気は毛頭ないのだが、イーゼム王軍がアンドルー王子を領内深くに誘い込み、遊撃軍を使って国境線を襲う段取りをしていることはないだろうか?」

「私には分かりかねますが、殿下がその様に心配されていたとは、陛下に御報告させていただきます」

「そうか、そうしてくれれば助かる。余の杞憂であればいいのだが、三ヵ国軍が連動して我が国を挑発し、どこからか大軍を動かし、直接王都を狙うかもしれないと心配になったのだ」

「恐れながら申し上げます」

「なんだ」

「王都は我ら王都騎士団が御守りしております。どこの誰が攻め込んでまいりましょうと、決して城壁を破らせは致しません」

「そうか。貴公にそう言って貰えると安心だが、もし万が一そんなことになれば、国境から王都までの街や村が敵軍に蹂躙され、多くの民が塗炭の苦しみを味合うことになる」

「殿下の国民に対する深い御慈愛の心、感動したしました。ですが万が一何者かが我が国の領土に攻め込むような事がありましたら、各地の領主が手勢を率いて迎え撃ってくれることでしょう」

「そうだな。余計な心配だったな」

 王都を護る近衛の騎士団として誇りを持つことはいい事なのだが、それが傲慢や油断につながらなければいいのだが。

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