第76話戦況

「苦しゅうない。落ち着いて順番に話すがよい」

「は。有難き幸せでございます」

 バッシー騎士家が王宮に送った伝令は優秀だった。 

 時系列に従い、順序立て客観的な報告を行った。

 その御蔭で、王も重臣達も正確な状況を知ることが出来た。

 愚かな大貴族の中には、伝令の言う事が理解できず、頓珍漢な質問をする者もいたが、重臣にたしなめられて恥をかくだけだった。

 アリステラ王国にとっての最初の齟齬は、貴族軍の意思統一が出来ていなかったことだった。

 いや、そもそも統一できるはずがない。

 王家の派遣した監軍にも、国境警備騎士団長にも、貴族連合軍の指揮権がなかった。

 王家王国の手抜かりなのだが、明確な指揮官を送り込まなかったのだ。

 いや、国境の城に入った以上、国境警備騎士団長に指揮権があるものと考えていた。

 だが貴族家の中にも小知恵の回る者がいた。

 いや、欲に憑りつかれた者が異常に多かった。

 国境警備騎士団長の指揮を受けないように、城外に陣を張る貴族家が続出したのだ。

 エステ王国軍が攻め寄せてきたら、先陣を切って武勇を示したい者。

 エステ王国軍から高貴な捕虜を手に入れ、身代金を手に入れたい者。

 エステ王国軍の兵卒を手に入れ、奴隷として使役したい者。

 多くの貴族が、国境警備騎士団長の命令に従わなかった。

 そんな中で、バッシー騎士家は国境警備騎士団長の指揮を尊重した。

 国境警備騎士団長は、貴族連合軍がおかしな真似をしでかさないように、バッシー騎士家などの王家派貴族に御願をした。

 一旦城に入った王家は貴族家も、国境警備騎士団長の指示に応じて、城外に陣を張ることになった。

 そこに大規模儀式魔法による攻撃が襲ってきた!

 国境の城には、隣国の奇襲に対抗出来るように、強力な防御魔法や結界が張られている。

 基幹となる堅城は、大規模儀式魔法の攻撃を避けるため、国境から少し奥まったところに築かれている。

 国境近くには見張りの砦が設けられ、時折は国境を越えて密偵が派遣されている。

 その全ての警戒と準備を掻い潜り、一撃で城を破壊するほどの魔法が放たれたのだ。

 エステ王国がどれほど前から、狙う城のはるか遠くに、通常では考えられないくらい大規模な、攻撃魔法の魔法陣を築いていたことになる。

 城の攻撃と同時に、国境線に築かれた関所や見張り砦が攻撃された。

 圧倒的な魔力量の攻撃魔法が、国境線近くに点在する関所と砦に降り注いだ。

 関所や砦にも、今迄エステ王国が侵攻を躊躇うほどの防御準備が整えられていたのに、それが一瞬で討ち破られてしまった。

 魔法発動音が耳を劈き、魔法発動光が目を眩ませる。

 それは将兵を恐怖に陥れただけでは済まず、軍馬や駄馬、輓馬さえも恐慌状態にさせてしまった。

 野外の急造の陣では、恐慌状態に陥った馬達を留める事など出来なかった。

 暴れ回る馬の所為で、各貴族の陣は破壊されてしまった。

 いや、それどころか貴族や配下の将兵を更に混乱させてしまった。

 だがそんな中でも、一部の貴族家は馬を宥め、将兵を統率し、軍としての統率を取り戻していった。

 そして自家に留まらず、隣接する貴族家の混乱も沈静化させ始めた頃、国境線を突破したエステ王国騎馬部隊が襲い掛かってきたのだ!

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