第68話近親婚?

「どうなされますか?」

「解放はしないよ」

「陛下の提案を拒まれるのですか?」

「父王陛下も正妃殿下も、本気で捕虜を無条件解放しようとは思っておられないよう」

「それはそうでございましょう」

「周辺国の手前、提案という形で話をもってこられただけだよ」

「それは理解しております」

 余が魅了の魔法でネッツェ王国の一割の領地を占領したことは、周辺諸国に衝撃を与えたようだ。

 このまま放置しておくと、自分達まで魅了で支配下に置かれてしまうと恐怖してしまったのだ。

 この恐怖は、魔境で己を鍛えられない者独特の感情だろう。

 父王陛下も正妃殿下も、いや、王太子殿下や第二王子も、警戒はしても恐怖を感じてはいない。

 自分を鍛えれば魅了されることはないと、十分理解しているからだ。

 己を磨くことを忘れた、愚かで怠惰な王侯貴族の反応だ。

 いや、もしかしたら理解しているが、外交上少しでも有利な状況を創り上げようと、拒否されるのを見越して取りあえず使者を送って来た可能性もある。

「しかし最悪の想定をしておかれるべきではありませんか?」

「父王陛下と正妃殿下が、余を殺そうとする可能性か?」

「はい」

「絶対に裏切らない事を証明しておくのだな」

「はい」

「母上様が後宮にいるだけでは不足か?」

「私には十分に思えますが、陛下と正妃殿下が同じように感じられるとは限りません」

「どうすればいいと言うのだ?」

「妻子を人質に差し出すのが定石だと思われます」

「古典的だな」

「だからこそ、王侯貴族には効果的で、安心されることでしょう」

「だが余には妻も子もいないぞ?」

「形だけの正室や養子であっても、見殺しにすれば王侯貴族の面目に係わります」

「それは、正妃殿下の係累から正室と養子を迎えろと言う事か?」

「はい」

「近親婚になるな」

「仕方ございません」

「王太子殿下や第二王子の娘を正室に迎えることになると、姪と結婚することになるのか」

「ですが本当にそうなれば、正妃殿下や王太子殿下が裏切る可能性も低くなります」

「出来れば、正妃殿下の姪くらいにして欲しいのだが」

「血縁関係のない姪なら最高ですが、果たして正妃殿下に年頃の姪がおられるかどうか」

「形式だけなら、遠縁を養女にすればいいだろう」

「左様でございますな」

 戦争中のネッツェ王国はともかく、エステ王国とイーゼム王国が、余の魅了魔法を恐れて父王陛下に、ネッツェ王国の占領地無効を申し入れてきた。

 ネッツェ王国のからの要請もあったのだろうが、アリステラ王国が強大化することも恐れているのだろう。

 まあ正直なところ、魅了の魔法で操っている人間を領民にすることは抵抗がある。

 だがだからと言って、タダで占領した領地や領民を手放す気は毛頭ない。

 出来るだけ有利な条件を引き出す心算だ。

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