第67話交渉

「しかし殿下、全てはボニオン公爵が約束したことで」

「黙れ!」

「しかし殿下」

「もはや宣戦布告は行った。貴国の第二王子や諸侯はそれに同意され、五万騎をもって僅か千兵の余に襲い掛かってきたではないか」

「それは殿下が宣戦布告をなされたからでして」

「「「「「あ!」」」」」

「そうだ! 貴公の申した通り、宣戦布告に応じて貴国の王子が余に襲い掛かってきた。正式な戦争で捕虜にしたのだから、不当な拘束ではない!」

 愚かな事だ。

 ネッツェ王国にも優秀な官僚はいるのだが、彼らの上に愚かな貴族がいるため、余との直接交渉はその愚かな貴族が行う事になる。

 だから上手く誘導すれば、容易く言質をとられて不利な立場になる。

 まあ我がアリステラ王国でも、愚かな貴族の所為で色々問題が出ているから、ネッツェ王国の事を馬鹿に出来ない。

「これで我が国と貴国が戦争状態であることは確認できた。使者は御帰りだ!」

「御待ち下さい」

「どうか、どうか御待ち下さい!」

「殿下!」

 余の命令を受けて、捕虜のネッツェ王国騎士が、ネッツェ王国の使者をボニオン騎士団城から追い出す。

 まだ余の騎士団は未整備なので、国の正使を迎える作法など覚えていない。

 正使に無礼な対応をしては交渉が不利になるので、礼儀作法が完璧な捕虜を選抜し、魅了で動かしたのだ。

 それにもし何か無礼があっても、同じ国の捕虜がやった事なら余の不利にはならない。

 それにしてもネッツェ王国の動きは鈍い。

 まあそれも当然かもしれない。

 何と言っても直前までは、描いた通りに謀略が進んでいたのだから。

 第二王子から連絡が来なくなっても、それはアリステラ王国の奥深くまで、順調に侵攻しているからだと思っていたのだろう。

 それが、攻め込んだ五万騎全てが捕虜になり、占領していた国境線の村々どころか、自分達の領地や街が占領されているとは、思いもしなかったのだろう。

 余も最初は、奪われた領地と村を取り返すだけの心算だった。

 だが余りにネッツェ王国の対応が遅いので、領地と街を占領してみた。

 もちろん使える兵力などないから、ネッツェ王国が本格的に反撃してきたら、国境線まで引き上げる心算だったのだが、全く対応してこなかった。

 二十一の城と百二十六の村を占拠し、余に忠誠を誓うように魅了魔法を使った。

 だがこの頃ようやくネッツェ王国も疑問を持ったようで、ナーセル首長家に調査を命じ、ガマール・アブドゥル・アル=ナーセル当主が、直々に五千の騎馬軍団を率いてやってきた。

 ナーセル首長家軍だけなら魅了で捕り込めたのだが、監察官として同行していたグレアム将軍と魔法使いのレフ・ニコラエヴィチ・ムラー・トルストイに抵抗されてしまった。

 重ねて魔法を使えば魅了することが出来たと思うが、魅了の魔法で人々を支配することは、一時的ならともかく、永続的に行うのはどうにも嫌だった。

 だからこの状態でネッツェ王国と交渉を行う事にしたのだった。

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