第53話王手2

「なんて下劣な連中だ!」

「これで我々が操っていることが明白になってしまいました」

「仕方がない。何の罪もない民を殺すわけにはいかん」

「は」

 余と爺は、ビッグベアを操ってボニオン公爵の居城に向かったのだが、公爵家は下劣で強かだった。

 何と公爵家は、城下の住民を盾に使ったのだ。

 公爵家にも浅知恵くらいは回る者がいたのだろう。

 余と爺の襲撃で、民が全く巻き込まれていない事を知り、民を盾に使う事を思いついたのだろう。

 だがこれは一つの重大な事実を含んでいる。

 魔獣が襲う人間を選んでいるという事だ。

 つまり誰かが魔獣を操っているという事で、自然に魔獣が魔境から溢れたわけではないという事でもある。

 結果として公爵家の魔境管理不十分の罪が軽くなることになる。

 しかも余が係わっていることを絶対に悟られるわけにはいかない。

 この事実が露見したら、王家王国が公爵家に罠を仕掛けたと言う印象を与えてしまう。

 だから隠形の魔法を強化することにした。

 つまり襲撃は続けるという事だ。

 民を防御魔法の応用で進路から移動させ、ビッグベアをボニオン公爵の居城に進めた。

 だが多くの民を避けながらの移動は、ビッグベアの行動を遅く単調にさせた。

 民を怪我させないように移動させるのは、魔法を使っても細心の注意が必要だったので、どうしてもビッグベアの動きを制限してしまう。

 ここをボニオン公爵家騎士団に狙われてしまった。

 遠方から雨霰と矢を射掛けられたのだ!

 空を圧するほどの矢が降ってきた。

 周りにいる民の事など全く考慮せず、殺しても構わないという攻撃だ。

 これが更に余と爺の行動を制限した。

 新たな防御魔法を展開して、民を護らなければいけなくなった。

 だがまあ何だ。

 ボニオン公爵家騎士団が射るような、勢いのないへなちょこの矢が、白銀級魔獣のビッグベアを傷つける事など出来ない。

 だがボニオン公爵家騎士団は、余や爺が考えている以上に下劣だった。

 事もあろうに、矢に猛毒を塗っていたのだ!

 だがどれほど猛毒であろうと、人間が扱える程度の毒で、白銀級魔獣を殺すことなど出来ない。

 だが周りにいる人間は別だ。

 僅かな傷がついても、そこから毒が入って悶え苦しんで死ぬことになる。

「敵もやりますな」

 余の堪忍袋が音を立てて切れそうになった時に、爺が声をかけてくれた。

「なんだと」

「敵国が侵攻した場合は、これくらいの事は当たり前でございます」

「なるほど。目の前にいるのは、ボニオン公爵家騎士団に偽装したネッツェ王国軍だというのだな」

「そうです。そうでなければ、今迄の民を巻き込んだ戦い方や、女子供を拉致乱暴した理由が説明できません」

「そうだな。栄光あるアリステラ王国の騎士が。それが例え公爵家の陪臣騎士であろうと、婦女子を拉致乱暴するなど有り得ないな」

「はい。ネッツェ王国の侵略軍が相手なら、何の遠慮もいりません」

「では、全力で行くとするか」

「はい。殿下」

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