第52話王手

「殿下、ほとんどの公爵家の民が領地から逃げ出しています」

「公爵家は邪魔していないのか?」

「魔獣を恐れて騎士団が領境から逃げ出しています」

「情けない話だな。民は安全に逃げられているのか?」

「魔獣が民を襲わず、いえ、むしろ騎士団に攫われた女子供を助けたと評判になっていますので、魔境に近くにまで移動してから領境を越えています」

「そうか。それならサウスボニオン魔境代官所に逃げ込めるな」

「はい」

「だが、貧しい民は食べる物にも困っているのではないか?」

「正体不明の善人が、無償で炊き出しを行っていますので、飢える心配はありません」

「正体不明の善人とは、正妃殿下の息のかかった御前達の事ではないのか?」

「さて、何の事でございましょう」

「どうせ全てが片付いた後で、炊き出しはアンドルー王子がなされていたことだという事になるのだろう」

「そのように重大な事は、私のような忍者に知らされることではありません」

「そうか。御前は正妃殿下から絶大な信頼を得ていると思うのだがな」

「その様な事はありません」

「まあいい。それで余はこれからどう踊ればいいのだ」

「私のような忍者が、殿下の行いに口を挟むなど恐れ多い事でございます」

「正妃殿下からの伝言を預かっていないのか?」

「何も御聞きしておりません」

「分かった。ならば好きにさせてもらおう」

「はい」

 三日三晩かけて二個目のボニオン公爵家騎士団を壊滅させた余と爺は、一日ボニオン魔境で休息をとった。

 普通の人間ならボニオン魔境は危険な場所なのだが、余達には警戒さえしていれば休息くらいはできる場所だ。

 パトリック達が魔獣管理をしてくれているので、ボスやそれに準じる強力な魔獣が現れない限り、リスク計算が出来る。

 十分な休養を取りながら、忍者達から三日三晩の間に変化した状況を教えてもらった。

 一日の休養で十分身体が回復したので、ボニオン公爵家に止めを刺すことにした。

 二匹の魔獣を操り、ボニオン公爵家の居城を襲撃することにしたのだ。

 いくらボニオン公爵家でも、居城を魔獣に破壊されたら言い訳のしようがない。

 だがいくら何でも公爵家の居城だ。

 今迄のような弱兵ばかりとは思えない。

 ボニオン公爵家王都屋敷を護っていたエルトン・テレンス・ジャガー騎士のような強者がいる可能性が強い。

 ネッツェ王国からの援軍もいるかもしれない。

 忍者達はいないと言っていたが、余を殺すための罠と言う可能性もある。

 だから今度は白銀級魔獣のビッグベアを誘導することにした。

 今迄の行動を見れば、ボニオン公爵家に白銀級魔獣に対抗できる騎士がいるとは思えない。

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