第54話虚言

「ネッツェ王国の指揮官に申し付ける。余はアリステラ王国の十六王子、アレクサンダー・ウィリアム・ヘンリー・アルバート・アリステラである」

 敵からは何の返答もない。

 まあ当然だろうな。

 自分達はボニオン公爵家騎士団だと思っているのだから。

「宣戦布告もなくアリステラ王国領に攻め込み、何の罪もない民を盾にしての攻撃は卑怯千万、それで騎士だと言えるのか!」

多少はざわついてきたなあ。

今自分達のとっている戦法が、騎士の精神から著しく外れていることくらいは理解しているのだろう。

「あまつさえ、ボニオン公爵家騎士団に偽装して悪逆非道な行動を取り、ボニオン公爵家やアリステラ王国の名誉と栄光に泥を塗る行為は断じて許せん。もはや騎士道精神に則った戦いは出来ないとは判断し、盗賊を対象とした戦い方をするとここに宣言する」

「あいや待たれよ!」

「何を待てというか」

「私はボニオン公爵家第六騎士団団長、ケアリー・フォン・オールチャーチだ。貴殿こそ本当にアレクサンダーなのか? 本当にアレクサンダー殿下なら、何故理由もなく公爵家に魔獣をけしかける」

「盗人猛々しいとは貴様の事だな」

「何を言っている!」

「本当のボニオン公爵家騎士団ならば、民に向かって矢を射掛けたりしない。まして栄光あるアリステラ王国の騎士ならば、矢に毒を塗るような卑怯な行いなど絶対にしない」

「これは、御前がけしかけた魔獣を斃すために、仕方なくやったことだ。全ては御前が魔獣を操り、ボニオン公爵家に攻撃をしかけたことから始まっている」

「それは違う。余はネッツェ王国の工作員がボニオン公爵家の家臣を騙り、サウスボニオン代官所領内の民を拉致した事件の捜査をしていただけだ。魔獣など操っていない」

「嘘を言うな! 御前が魔獣を操っているし、ネッツェ王国の工作員の話も嘘だ!」

「いいや、嘘ではない」

「だったら証拠を見せろ。どこにネッツェ王国の工作員がいる」

「目の前にあるではないか」

「なに?!」

「分からないのか。御前達だ。民を虐殺する御前達が、堂々と騎士の恰好をしている。これがネッツェ王国の工作員が入り込んでいる証拠だ」

「それは御前が魔獣を操っているからしかたなく」

「黙れ!」

「・・・・・」

「いかなる理由があろうと、栄光あるアリステラ王国の騎士が、民を盾にして我が身を護ることはない!」

「なぁ!」

「アリステラ王国の騎士ならば、その身を盾にして民を護る!」

「いや、待て!」

「もはや問答無用。死ね」

「殿下」

「何だ、爺。今いい所ではないか」

「死んだ者は何の役にも立ちません。正体を明らかにして戦う事にされたのなら、捕虜にして奴隷に落としましょう」

「そうか。ならば麻痺!」

 余は銅級の十万倍の破壊力があり、並みの人間ならば同時に十万人を麻痺させることが出来る、白銀級の麻痺魔法をボニオン公爵家騎士団に放った。

 当然白銀級の魔法だから、相手が白銀級の魔獣でも麻痺させることが出来る。

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