第50話再会

「おおおお、よく無事で。生きていてくれたのだな」

「あんた! ごめんよ。ごめんよ」

「兄さん」

「よく無事で生きていてくれた」

「おにいちゃん!」

 あちらこちらで、生きて二度と会えないと思っていた家族に再び会えて、感動の涙を流す者達がいる。

 そんな家族の感動の再会に水を差すことになるのだが、女達の健康診断と治療をしなければいけない。

 女達は強制的に売春をさせられていた。

 それも非情に劣悪な環境でだ!

 だから栄養状態は悪いし、望まぬ妊娠をしている可能性もある。

 身体を治してあげるのは当然だが、分からぬように堕胎もしてあげないといけない。

 夫や恋人と再会できて、過去を忘れて新たな生活を始めたくても、誰とも分からない他人の子供がいては難しい事もある。

 胎の中の子には何の罪もない。

 母性で産みたいという女もいるだろう。

 だがそれが、夫や恋人、いや、家族の間に無視できない棘となり続ける可能性が高い。

 だから助け出すまでの間に、男達に話し合ってもらっていたのだ。

 妻や恋人が他人の子供を宿していたり、他人の子を産んでいたりした場合、どう対応するのか。

 男達も色々悩んだのだろうが、結論は堕胎するという事だった。

 男達は、他人の子と自分の子を同じように可愛がる自信がないと、正直に話してくれた。

 勇気がいる事だと思う。

 赤の他人は、彼らの苦しみや哀しみを思いやることもなく、薄っぺらい理想を口にして、さらなる苦しみと重荷を背負わせようとするだろう。

 今回の決断に対しても、理想論を口にして非難するだろう。

 だが妻や恋人と幸せな生活を再開するには、どちらかを決断しなければいけない事だった。

 だから余は手伝うことにした。

 女達にはケガや病気の治療をすると伝え、受胎していた場合は水に流すことにした。

 幸いなことなのかどうかは判断できないが、子供を連れた女はいなかった。

 売春の邪魔になると、妊娠したら強制的に堕胎させられていたようだ。

 だがその所為で妊娠できなくなっていた女がいた。

 そんな女には何も言わずに治療しておいた。

 性病や死病に罹っていた女もいたが、全て黙って治療しておいた。

 だが体力までは直ぐに元通りに出来ない。

 最低限の食事しか与えられないかった女達は、領境を超える移動は難しかった。

 そこでボニオン魔境内に村を築くことにした。

 圧縮強化魔法で岩盤板を創り出し、岩作りの家を創り出した。

 一家族に一軒の家を作った。

 再会を喜ぶ家族の為に家を創り出すのは愉しかった。

 今迄で一番楽しい仕事だったかもしれない。

 だが、中々家族に再会出来ない男もいた。

 彼の妻や娘が生きていてくれればいいのだが。

 全てがパーピーエンドになるとは限らない。

 だがそんな彼が、自分の哀しみや不安を押し殺し、友の家族との再会を一緒に喜んでいる。

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