#55 機械の主



「サイヲ!右2時の方向、荷電粒子光、三柱着弾っ」

「突っ走れ」


 真夜中を疾駆する鉄の棺桶の進路の脇を3つの荷電粒子光が柱を打つように着弾していく。


「サイヲ、敵攻撃には注意を払って下さい」

「核を準備している割には荷電粒子攻撃ばかりだな」

「わかっていますか? 今までの攻撃は全て威嚇ですよ?」

「ああ。本格的な抹消攻撃じゃない。どういう事だ?」


 敵は核弾頭を準備している。更にいつでも撃てるように発射態勢まで整えている筈だ。なのにここまでの攻撃手段は撃てば消える荷電粒子砲撃のみ。


「周囲の放射能汚染を気にしている?機械だらけのサング・エリー徒衆団トリーブルがっ?」

「現在、敵対象にしているサング・エリー徒衆団には最終意思決定段階の地位に人間が存在します。いかにサング・エリー徒衆団であろうと放射能汚染を完全に遮断できるわけではありません」

「機械が人間の心配をしているのか?わからないな。ヤツラは人間の真似事をする気なのか?」

「ワタシたちが機械と人間でつるんでいるからでしょう。彼らはワタシ達の関係性に興味を抱いていると判断できます」

「だとしても、今はその敵が味方の中枢機関に乗り出そうとしているんだぞ。手段は選んでいられないだろ?」

「ですからサイヲ、来ますよ」


 正面から三発、真横から一発の荷電粒子砲撃を避けて、鉄の棺桶は直進する。


「あっぶないなっ。しかし、また荷電粒子だった。アイツラって本当に荷電粒子ビームが好きだな」


 現在の機械による攻撃手段は主に実弾兵装と荷電粒子兵装の二種類に分かれている。とりわけ多用されるのは実弾的な痕跡の残らない荷電粒子ビーム系の兵器だった。


「各、敵拠点の核弾頭の動きは?」

「ナシです」


 左足と右足のアクセルフットレバーを踏み込みながら高速走行中の振動を座席から受けつつ右手と左手のスロットレバーを握り絞めて前方の装甲内画面を見つめる。


「サイヲッ、正面に敵性反応ッ」

「回り込まれた?こんな荒野のど真ん中でか?」


 敵機の接近によるレーダー感知はなかった。と言うよりもカミハの索敵能力は位置エネルギーによってほぼ光速距離内での物的移動は瞬時に把握できる。問題は物から物に伝わる波の動き「音」や「光」によるエネルギー伝達による情報通信手段が傍受出来ないことだが、それは位置エネルギーによる物の動きによって『確率的』に推し計ることができた。


「おれたちが確率的にしか知ることの出来ないのは『エネルギーの動き』だけだ。そしてヤツラはこれに加えて『物の動き』も確率的にしか知る事が出来ない。シュレティング・フィールド確率のみの領域。賭けは俺たちの負けか。ヤマを張られたってワケだ。待ち伏せとは悪い趣味だなッ!サング・エリー徒衆団ッ! そしてっ! サング・エリーッ!」


 急停止させたカミハの天井部のハッチを開いて少年サイヲは、鉄の棺桶の天井装甲の上部に躍り出りあがると、目の前に荒野が広がる正面。

 整然と両脇で整列する少年少女達の中央の奥で立つ白いドレス姿の少女、サング・エリーを見た。



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