#54 一機当全



 正面から来る集中砲火を全て受け切り、黒い機体は未明の海上を疾走する。


《なんでアイツを止められないッ?》

《ダメだッ、荷電粒子砲が吸収されてる》


 三方向から来る砲火を浴びながら、黒い機体は前面フィールドでそれを受け切り音速を超えた機動で海上を夜下なんかしていた。


「あいつら、荷電粒子砲ばかりに頼り切ってるな」


 空の色が黒へと濃くなっていく。その黒の方向の先から迸る何度も瞬く荷電の閃光。

 正面から被弾していく黒い棺桶は真夜中の海上を疾走して三機のサング・エリー徒衆団の間を駆け抜けて行く。


〝抜けられたッ?〟

〝くそっ、なぜ止まらないッ?〟

〝まずいっ、あの先はっ〟


 疾走する黒い棺桶が海上から陸上へと上がってさらに南下を続けた。

 そこは既に昼の境界が見えなくなった夜の領域。


「サイヲ、後方からサング・エリー徒衆団が三機、追ってきます」

「まだ分かっていないのか。あいつらじゃおれたちは止められない」

「現在E2エリアを通過中。あと30でE3エリアに侵入します」

「追って来るよな」

「勿論でしょう。迎撃しますか?」

「キリがないだろ? 好きにさせておくさ」

「全396カ所からロックオンされています。発射準備は核弾頭」

「サング・エリー徒集団(テレーボウ)か。撃てるもんなら撃ってみろっていうんだよ。試そうじゃないか」

「挑発は感心しません」

「ただ走ってるだけだろ? 俺たち」

「ここは夜の世界です。我々がいてはいい世界ではない」

「お前の生まれ故郷だ。懐かしくないのか?」

「ワタシの産まれはE6です。もはや遠い思い出でしかありません」

「なら拝みに行こうじゃないか。俺はお前の生まれた場所が見てみたい」

「正確にはワタシが活動していた場所ですね。機械は部品の寄せ集めですので。ワタシたち機械が生まれた場所は正確に言えば存在しない」

「だったらお前が暮らした世界を見にいくさっ」


「サイヲっ、荷電粒子! 直上ッ!」


 カミハの警告でサイヲはアクセルのスロットルフットレバーを気持ち踏み込む。

 外の天上から迸った荷電粒子光が一閃。一直線に地上を薙ぎ払うと巻き起こる砂ぼこりの中を、鉄の棺桶はなおも南下を続けていた。


「……今のは?」

「E4からの長距離荷電攻撃です。今度は群れできますよ」

「機械が、生き物みたいに群れるなよッ、って言いたくなるよな」

「シュレティングフィールド、張っておきますか?」

「低出力走行……できるのか?」

「追撃してくるサング・エリー徒衆団に追いつかれますね」

「なら却下だ!このまま突き進むぞ」


 陸上で砂煙を上げながら進む鉄の棺桶が、真夜中を駆ける。



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