#53 たった一体と一人の出撃



 滑走路カタパルト甲板の風は思ったよりも強かった。


「……風が強いな」

《ガンフラグか》

「早い会話だな。サング・エリーの取り巻きども」

《お前、一人か?》

「もうすぐ、相棒が上がる。それまで待ってくれよ」

《それはサング・エリー様を待たせるという事だ。分際を弁えろ》

「サング・エリーなんざ知ったこっちゃないねっ」

《貴様ッ》


 遥か黎明の水平線の彼方から、荷電粒子砲が発射されて迫ると突き抜ける。

 しかし荷電粒子砲は、テストレスの船首部分で半円状に遮られると拡散した粒子軸が曲折して周囲から突き抜けていった。


《荷電粒子砲が……曲がっただとっ?》

「遅かったな。カミハ」

「深刻な怪我人に向ける言葉ではありませんね。サイヲ」


 滑走路の甲板上に仁王立つサイヲの背後で、艦内格納から滑走路昇降機で上がってきた被弾によって穴だらけにされた黒い機体が姿を現す。


「回復率はどうだ」

「現在20%」

「チッ、アイツら荷電粒子の出力を弱めやがったか?」


《なんだと?》

「もっと撃ち込めよ。知らないのか? E=mc²。お前んところの下っ端のなんだっけ? ガンファイブだったか? そいつから何も聞いてないのか? エネルギーは物質に戻すことができる。だからお前らの荷電粒子砲撃も物質に変換して機体の補修に回せるんだけどな?核爆発のエネルギーだって全てを合わせても1kg程度が精々だ。だったらお前らのその荷電粒子攻撃をまともに喰らってもそれほど物質の足しにもなりやしない。まったくお前らの非力具合にはほとほと失望しちまうよ……。カミハッ」


 サイヲが呼ぶと、背後のスクラップ状態となった残骸の鉄の棺桶も核融合エンジンを起動させる。


「メインエンジン始動。回復させます」

「1秒で済ませろ」


 爆発が起きて、スクラップの状態だった鉄の棺桶が元通りの黒い機体に復元される。


「リザレクト完了。搭乗可能です」

「当然だ。アインシュタインを帰還させる。見せてやるよ。行くぞサング・エリー徒衆団。いまからオレがお前たちを直々に相手にしてやる」


 黒い機体の天井のルーフハッチが開いて、飛び上がるといつもの座席に搭乗する。


《サイヲくん。こちら艦橋管制。滑走路カタパルトいつでも射出できます。どうぞ》

「ありがとうございます。今までお世話になりました」

《気をつけて》

「はい」

「サイヲ」

「わかってる。カミハ。ハッチ閉じろ。機体チェックだ。第4番から14257番まで全て走査」

「完了。全て艦隊戦前の状態に復元」

「上出来。行くぞ。敵は正面、全サング・エリー徒衆団トリーブルッ!」


 整備服の少年が、黒い機体の搭乗席のアクセルフットレバーを思いっ切り踏み込む。


「これから会いに行くぞ。サング・エリーッ」


 叫んだ少年の言葉で滑走路の黒い機体は音速を超えて発艦した。

 目指すは遥か彼方の暗黒の地へ。



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