#50 イエス、テストレス
「テストレスか?」
それは非常に無機質的な少年の声だった。
「誰だ?」
「サング・エリー
接近する複数の機影から、警告を発する為の周波数を強引に合わせられて通信回線が
「サング・エリー
「数は三機。先程のガンラーダ、ハヤミ・カザトとは違う反応です」
「新たなサング・エリー徒衆団だとッ?」
既に艦隊戦はこの機械の世界の頂点であるサング・エリー徒衆団の一人、ガンラーダとハヤミカザトの撤退という結果によってガンサイド艦隊側の勝利となっている。
にも関わらず。これ以上のサング・エリー徒衆団の出現は予想を超えるものだった。
「テストレスか?」
何度もそう呼びかけられる。
「……か、艦長」
「ああ……分かっている」
艦橋スタッフの困惑した感情がオブワルドにも伝わってくる。
「もう一度訊く。……テストレスか?」
「……イエス。テストレス」
艦長オブワルドが言うと無線の向こうにいる相手も呼吸の感触を変える。
「ならばテストレスに告げる。
匿っている隠れた変数理論を差し出せ。口答えはするな。これは我々、
「か、隠れた変数理論とはこの少年と機械のことか?」
「口答えはするな!と言った」
有無を言わさない高圧的な発言。言葉は必要ない。行動だけをしろ。
それだけがこの場を支配する絶対の鉄の掟である。
この惑星、
この命令に逆らえる者など一人として存在するはずはなかった。
「どうします? 艦長」
「どうすると言ったところでやるしかなかろう。相手はサング・エリー徒衆団だ。我々が太刀打ちできる相手ではない。ゲーベッシュ!」
艦内放送で、整備格納庫の主任と連絡を繋げる。
「ダメですよっ、艦長。あの機体、損傷が激しすぎるッ。あと一日は修理が必要です」
「出せんのか?」
「出しても走りませんよ。全配線系がオーバーヒートだ。こんなスクラップ状態で出したら、カタパルトで打ち上げた途端に海面に落ちて沈みます」
「だがサング・エリー徒衆団は……」
「それを決断するのは
頼りにする整備長に冷たくあしらわれて、艦長席からズリ落ちる。
「まったく。どいつもこいつも……」
艦長帽を深くかぶると黒いツバで目を覆い隠した。
「出してください」
立っていた少年サイヲが言う。
「しかしな」
「出してください。ボクたちは出れます」
言って艦橋室のドアから狭い通路に飛び出した。そしてすぐに階段を駆け下りる音がする。
「ああもうッ!ゲーベッシュ! 07番発進準備だ!」
「いいんですかッ?艦長」
「構わん。そして
最後の出撃が始まる。
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