#49 テストレスか?



 海上の波で船体が揺れている。


 決着のついたサング・エリー徒衆団の一人、ハヤミ・カザトとガンラーダとの勝敗が決着した後。サイヲはここ。巡洋空母艦テストレスの逆Vの字型の全滑走路を一望できる艦橋棟の最上階の部屋にいた。


「戦闘中の会話は聞かせてもらった」


 もはやこの時代では見張り台としての役割もない最上階にある艦橋室。その中央にある艦長席に座る艦長オブワルドが艦長席から離れた場所で立たせているサイヲを見て言う。


「サング・エリー徒衆団トリーブルとの会話。あれは本当だったのか?」

「本当です」

「サイヲ・フッテイルくん。君の本当の正体は……」

「ぼくはカミハによって生まれた機工人間です。カミハは元ガンライズシリーズの末端機械で、受けた命令を忠実に実行する単なる作業機械でした」


 担々と語るサイヲに、オブワルドは困惑した顔で頷く。


「ガンライズシリーズ。現サング・エリー徒衆団に相応しい少年少女を選ぶマスターマシンたちか」

「彼らは人間を支配する代わりに安寧を約束します。この艦隊戦もその一環だったはずです」

「公にはそうだ。安寧の中の娯楽。機械に守られた戦闘では戦死者が出ることはない。負傷者が出たとしても完治が約束される」

「この星の歴史は地球という前ビッグバンの宇宙時代に存在していた惑星の歴史を流用しています。あなたたちの本当の歴史は機械達の短慮によって闇に葬られた」

「それはいいんだ。我々にとって不都合はない。問題はサング・エリー徒衆団が言っていた言葉だ。……隠れた変数理論」


 艦長オブワルドの言葉に、サイヲは俯く。


「隠れた変数理論。どういう事か説明してくれるか?我々はそんな理論は聞いた事がない。いまも空母の中枢EIアンダースに検索をさせたが、やはり情報には引っかからなかった。

私も昔の学校で習ったことは機械を絶対視させる「不確定性原理」だけだ。

隠れた変数理論は決定論だという。ではその決定論である隠れた変数理論とは一体なんだ?」

「隠れた変数理論は決定論の一種です。機械は不確定性原理という確率的な世界性質を行動の動機としますが、隠れた変数理論は一定的な変動する数値によって世界が動いているという考え方を持った理論です。例えば数の数え方なら1を数えたら次に数えてしまうのは必然的に2という数字になる。1を数えたら2という結果が既に生まれている。つまり2という数字が未来にあるから、今のぼくたちは1を数えるという現象を起こした。これが隠れた変数理論の内容です」

「なぜ、そんな理論が今になって現われたんだ?」

「それは……」


 サイヲが口を開こうとした時、艦橋室内のスピーカーに電源が入ると音声が繋がった。


「テストレスか?」


 それはまたもや少年の声で話しかけられた。



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