#45 第二種永久機関 水(H²O)



「いつまで寝ているんですか? サイヲ……?」


 黒い機体のカミハの言葉で、穴の空いた機体の搭乗席ではスロットレバーを握る音が湿り気と共に響いた。


「……生命反応を再検知。蘇生現象を確認」

「なにっ?」


 上空で、カミハの慣れの果てである残骸を見ていたカザトが足場にしているガンラーダの言葉を聞いて驚愕の声を上げた。


「蘇生……だって? 生き返ったのかっ? この場で?」


 まだ信じられないサング・エリー徒集団の一員である少年カザトが自分の愛機に向かって問いかける。


「本当に蘇生したのか?ガンラーダ」

「……そのようだ。私も信じられない。搭乗者の上半身は完全に爆散していた。頭部さえ残っていなかった筈だ。それなのに強靭な生命力であると認識せざるを得ない」


「なにが強靭な生命力だよ……っ」


 吐き捨てる様に、カミハの機体の中で声がした。


「サイヲ。遅いお目覚めです。これで五分四十五秒間。あなたは何度もトドメを刺されている」

「まったく……憎まれ口は変わらないし、少しも寝かせてはくれないな?お前は」


「生体復元率95%。上々です」

「人の体だと思って簡単に言ってくれるよ。こっちは頭から体まで全て復元するのに時間がかかるっつーのに」


 機械と少年の蘇生漫才に、上空から一部始終を見ていたカザトは茫然としたまま苛立ちを感じた。


「なんでだ? なんで生きているッ?」

「その前に攻撃して来いッ!」


 被弾して装甲に穴の空いた黒い機体が、また起動し出した。


「その状態で攻撃して来いだと?」

「当たり前だろ? お前とオレは敵同士じゃないか?それでなんでお前は敵が生き返っても何もしないんだよ?」

「敵だからってできるものかっ!やっと瀕死で生き返った者に追い打ちをかけるなんてっ」


「オレだったらお前を撃ってる」

「なっ?」

「オレだったらお前を撃ってるさ。生き返ろうとしているお前をだ? 敵なんだから当たり前だろ?」


 それでも破損した黒い機体の中から喋り出すサイヲの言葉を聞いて、円盤のガンラーダに搭乗するカザトは疑問をぶちまける。


「なぜ生きてる? お前は上半身をふっ飛ばされた状態だったんだろう? それなのになんでお前は喋る事が出来ている?」

「水の吸熱反応の方向性を電流だけで再現して、DNAを電磁相互作用中の空間で組み上げた」

「は?」

「だから人間オレの身体の構成情報を電気の流れを使って一から記録通りに組み上げただけだっつってんだろうが!」

「な、何を言ってるんだ……?」

「あーッもう。人体のDNAは水の永久吸熱反応の動きで出来てるだろ?でもそれじゃ速度が遅い。だから水の吸熱反応よりも遥かに倍速にできる電磁相互作用の力を代替にして水の吸熱反応の方向性だけを模写したんだよ! そうすりゃ細胞分裂などの人体構成速度も電気の力で倍速にできる。それを今は修復速度まで底上げして使ってるだけだ」

「だがオマエの記憶は頭部ごと吹き飛んだはずだっ」

「そんなもんは別に記録してりゃ問題ないだろ?脳内の神経電気信号系統を空間上で維持してやればいい。あとはその空間で維持した電気信号神経流を、復元させたDNAの細胞自体に戻してやればいいだけさ。これを魂の復元化という」

「な、なんだそれは?」

「別に理解できなくていいよ。我々は記録されている。おしゃべりはここまでだ。今までの借りはそっくりそのままここで返す。行くぞ」


 身体の復元が殆ど完了した体で、サイヲは自分の機体のアクセルフットレバーを踏み込んだ。



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