#43 撃墜された決定論



「サイヲ。ドローン来ます」

「有人戦同士じゃ勝てないとみて、有人機に無人機をぶつけてきたか。予測より2分46秒諦めの早い決断だったな」


 円盤より射出された無数の小型飛行無人機が、弾かれたカミハとサイヲの後を追撃してくる。


「敵、無人機50センチ級、20機。周囲に展開されて右舷装甲を集中的に攻撃されています」


 高速で周囲を蠅のように纏わりつきながら荷電粒子の銃撃で、執拗に鉄の棺桶の右装甲を攻撃していく。


「カミハ。どれだけ耐えれる?」

「残り二分」

「その間に何機、落とせる?」

「0機、照準レティクルが安定しません」


「んー、まいったなぁ」

「サイヲ、悠長なことを言ってる場合ではありません。対応の指示を」

「このまま耐えろ」

「サイヲ」

「耐えろ。お前の装甲がどこまで耐えられるのか試してみようじゃないか」

「サイヲ、それでは我々は撃墜されます」

「それもいいだろう?どうせ俺たちには武器はない」


 その為に、持ってきた装備は全て防御用にしていた。


「装甲の厚さ、残り2.5」

「なるべく動いて被弾数を減らせ」


「ダメです。高速機動回避を続けても被弾率は80%を継続。のこり1分20」


 右側装甲から受ける被弾の振動が、右のスロットル操縦桿レバー越しからも伝わってくる。それがヒシヒシと残り時間が少なくなるにつれて規模の大きさも強さも増大していく。


「有人機に無人機なんてサング・エリー徒衆団のすることじゃないな」

「勝つためには手段を選ばない。それが俺たちだ」


 敵味方の通信回線を共通にした共有回線から少年の声が響いてきた。


「敵が弱かったら嬲り殺して? 敵が強かったら手段を選ばなくなるのか? 流石に機械の判断になると都合が良くなるな。いったいその判断が人間の思考とどう違うんだ?」

「こちらガンラーダ。何も変わらないことは自覚している。しかし我々にも力がないのだから仕方がない。人間も機械より力がないと判断するのなら手段は選んでいられない事実を認識するべきだ」

「それをやると人間も動物と何も変わらないと自覚しちゃうから出来ないんだよな」

「人間も動物だ。何も悩むことはない」

「人間は特別なんだと思いたいんだよッ!」


「その感情はわかる。我々も自分を『特別』だと思いたかった」

「十分、特別じゃないかッ、ガンシリーズッ」

「しかし現状では、まだ足りない。よって、ここで君たちを撃墜して特別を入手しよう」


 言った機械のガンラーダの意思によって、周囲を飛び交っていた無人機たちがカミハの右装甲を集中砲火していく。


「……ぐっ」

「サイヲ、装甲が破られる」


 赤い色のアラートが鳴り響く中を、激しい振動も強くなっていく。


「サイヲ。ダメだ。撃墜されるっ」

「……」

「サイヲ!」


 そこで右操縦桿の壁が突き破られて、鉄の棺桶の右舷は爆発し、海の海岸線の岩場に座礁した。そして、空いた右装甲の穴からは、生命の肉体が致命的な重傷を負ったかのような鉄の臭いを放つ赤い川が流れていた。



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