#42 無人機VS有人機



「……隠れた……変数理論……?」


 繋がった通信回線により気付きだした世界に、しかし戦闘の輪舞は止まらない。


「不確定性原理、隠れた変数理論ッ! 俺たちは世界の真実も分からずに自分たちの過去を過信していたッ! それが人間だけならばまだ良かった。しかし致命傷だったのは機械も同じだったことだッ!一番信頼していた機械こそが隠れた変数理論こそを見落としていたッ!」

「それについては私から謝ろう。カザト」

「ガンラーダ?」

「謝るのは人間だけですか?ガンラーダ」

「ガンフラグ。君か」


 機械と機械の会話がここで始まる。


「君については詳細を知らない。ここはノーコメントだ。カミハ」

「詳細など。不確定性原理で確率的に予測すればいいでしょう。それが確率に支配されたあなたたちに相応しい」


 薄気味悪い機械と機械の会話。答えなどでない。機械たちの行う会話は、答えを導く討論ではない。力によって相手の意志をねじ伏せる無機質な暴力だった。


「現在、不確定性原理では説明できない現象を30種類確認している」

「気の所為です。ガンラーダ。それはあなた方では説明できない現象なのではない。我々にしか使えない現象なだけです」


 抑揚も無く無表情に答えるカミハの言葉にガンラーダも沈黙を始める。

 その間にも海上の棺桶と円盤の動きは縦横無尽に動き回っている。


 荷電粒子砲が百発と荷電粒子ミサイルを千発、すでに発射しているのにその全てが掻き消されていた。


「どうなってるんだ。ガンラーダ。俺たちの攻撃がヤツラに当たっていない」

「起こっている現象の推論は2467通り、全てを説明するのは不可能だ。カザト」

「ならどうすればいいッ?」


 怒鳴った声から円盤中心で溜めた荷電粒子砲を放った。しかしそれは直ぐに黒い棺桶の前で球状に弾かれて霧散される。


「……バリアなのかっ? 隠れた変数理論では空間を歪めるとか別次元なんて話は出来ないはずだっ!」

「その通りだカザト。我々が持っている情報では敵が発生させている現象を説明できない」


「ならどうする?」

「現在の我々の戦力では、相手を攻略できない。相手とこちらでは機体スペックに大きな開きがある」

「俺たちはサング・エリー徒衆だぞっ?」

「その誇りは捨てるべきだ。カザト。我々が彼らの登場を待ち望んていた事実は直視しなければならない」

「……敗北……するのか……ッ?」


 これほど簡単に? 自分たちの今までの威勢と絶対性を失えと言うのか?

 目の前のたった二機の為に?


「カザト。一つだけ方法がある」

「なに?」


 円盤に乗る項垂れた少年に、円盤の機械は起死回生の手段を教える。


「ドローンを使用する」

「ガンラーダっ? お前っ?」

「そうだカザト。敵は有人の機動機体。ならばこちらは同じ土俵に立つことはない。無人機を放って有人機の誇りを徹底的に殲滅させる」


 だが、それは人の可能性の否定に他ならない。


人間おれたちは……用済みだって言いたいのか?」


 主である人間の言葉に、下僕である機械は現実を突きつける。


「勝ちたいのなら選ぶことだ。カザト。我々が敵に勝つ方法はそれしかない」


 断言する機械に、少年は俯いて選択を決断する。

 空を飛ぶ円盤ガンラーダの後部縁面で小型無人機ドローン排出用のハッチが開いた。



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