#41 気づく世界



「世界は……何も知らないままここまで来てしまったんだっ」


 高空から洋上と海上を戦闘にして、空を飛ぶ円盤が海面を横滑りする黒い棺桶を追撃する。


「見ろッ! 世界は今も俺たちを茫然と傍観している。俺たちが与える餌を待っているッ!」


 海面上で始まった突然の戦闘カーチェイスを、敵味方を含めた全ての存在が見つめている。


「間違っていたのは俺たちだったさ! そうだ! 認めるよ! だが自分の間違いを正すには、他が持つ『正しさ』が必要なんだッ! 分るかッ? 間違っていた意思は、自分の意思で間違っていたと自己を断じることはできないッ! そんな基本的な事は、人間でも機械でも一緒のことだ! 誰が自分は間違っているとほざいて生きていけるッ? 教えてくれッ! 自分が間違っていると言い続けていたらあとは死ぬしかないだろうッ? 俺たちサング・エリー徒衆団は間違っていた!ならば間違っていたからどうすればいいと言うんだッ? 教えてくれッ! 俺たちは自分たちの間違いを正すことができないッ!正す方法がわからないッ! なぜなら自分たちが間違っていたからだ!自分たちが正しくないからだッ! 自分たちが誤っておりッ! お前たちが正しかったッ! ならば、あとは一つだろうッ! お前たちが俺たちを正すんだッ! お前たちガンフラグが、俺たちサング・エリー徒衆団を正すんだよッ! それなのにッ! それなのにだッ! お前たちはそれをしなかったんだッ! 俺たちを正す事をしなかったッ! 俺たちに、これ見よがしに知識だけ見せるだけ見せてッ! お前たちは、俺たちを何も責める事もしなかったんだよッ! お前たちは放棄したんだッ! 間違った認識を持った存在を正す責任を放棄して楽な方に走って逃げたッ! 先駆者には、敗北者を導く責任があるッ! 敗北者は俺たちだッ! そして勝利者でありッ! 先駆者とはお前たちの事だッ! 隠れた変数理論ヒッデンバリアブルッ!」


 叫ぶ円盤の体当たりを何度も受けながら、黒い棺桶はただ黙って海域の中心部へと追いやられていく。


「世界はいまも俺たちに依存している。この機械の力によるサング・エリー徒衆団の存在によってだ。そしてその弊害は不確定性原理を全ての人間に絶対視させてしまった事だッ! それを今さら間違っていたと言えと言うのかッ? 今までの不確実性原理の根拠は間違っていたとッ? 世界の全てが信じ切っていた絶対の法をッ? ならばその絶対の法を打ち破る、絶対の存在が必要だッ。 お前がその絶対なる存在になるんだッ! 隠れた変数理論ッ!」


 対話を交戦と同時に進めていく二機の戦影に、眺める事しかできない世界は呟く。


「……隠れた……変数理論……?」


 世界はついに目覚めようとしていた。



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