第二次不確定性原理VS隠れた変数理論
#37 赤い流星のファイア
未明の海はまだ静かだった。
まだ困惑の色が抜け切れていないガンベット小隊の面々が集まって固まる洋上。
「ほんとうに来るのか?」
それぞれの無機質な機体に搭乗しながら、狭く息苦しい鋼鉄の
「来ますっ。それも今すぐにっ」
状況の切迫さを誰よりも判断しているこの状況を作り出した少年ノマウ・カスタムが声を大にして断言する。
「わかりました。その言葉を信じましょう。すみませんが。どなたか、敵との相対距離から襲撃予想時刻を割り出してください。その間にぼくたちは母艦テストレスとの空いた距離を詰めたいと思います」
「母艦との距離を詰める? どういう事だ?」
無線の混線する中で、他の仲間たちの声が砂嵐に交じる。
「敵の狙いが補給位置を潰した我が母艦の撃沈なら、ぼくたちは距離を空けない方がいい。現在の距離だと敵が多方面から来た場合、ぼくたちは母艦テストレスを守り切れなくなります」
ガンベット小隊の中でただ一人の部外者、傭兵枠で加入してきたサイヲ・フッテイルの言葉に、心を苛立たせる他の小隊員たちは平常心で受け取ることができない。
「そんな簡易的な措置で、敵からの攻撃が完全に防御ができると思っているのかっ?」
「こんな状況で完全なんて求めてるんですか?あなた方は?」
「き、きさまっ、」
「まずは危険性のある確率を減らす行動をします。ぼくは母艦との距離を空けたくない。ノマウくん。君の意見はッ?」
叫ぶサイヲを、今まで決断という決断ができなかったノマウが見る。
「……。テストレスとの距離を詰めましょう。敵の襲撃予想時刻はっ?」
〝もう遅い〟
けたたましく鳴る警告アラートと共にソレは……やって来た。
響く低い声が、洋上の波を完全に分け入って迫る。
暗い海の彼方から波しぶきを立てて接近してくる赤い光り。
赤い光は光源ではなく。ただ一つの物質となって挙動不審となっていうガンベット隊の脇を突いて急速的に距離を縮める。
「た、退避ッ!」
〝遅いと言った〟
敵性通信の共同回線通話。それは混線と呼ばれる混乱の序曲。
「つ、通常の七倍ッ? 通常の七倍の速度で接近する敵影ッ?」
〝そうだ。ガンベット隊諸君。忘れていたよ。難破船。いつも足手まといを演じていたキミたちを私たちは過小評価し過ぎたようだ。テストレス。どうするアスロ? ガンサイド艦隊旗艦カー・ライラムッ! やはりフルブライト。お前たちでも私の思考には追い付けなかったかッ!〟
叫ぶ不敵な声に、全ての洋上戦力が確信する。
「フ、フルブライト総艦長? アスロって旗艦カー・ライラムの機動大隊アンド・エヌ隊の隊長エースッ!アスロ・テイ械尉のことかっ? なら……、そんなまさか、この襲撃してきた機体ってッ……」
「「「赤い流星のファイアっ?」」」
それは敵側ガンレーン艦隊、最速最強の機動MGパイロットの名。
赤い流星のファイア。
ュア・ファイアブル。
〝だが心配することはない。テストレス諸君。どうやら本命は別にいるようだ……〟
突き抜けて、洋上で弧線に踊る赤い機体の流星の軌道の背後から、その黒い影はやって来た。
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