#36 これはキサマが作り出した状況だ



《しょ、小隊指揮の全権を委譲ッ!?》


 前代未聞のこの判断に、ガンベット小隊のメンバー全員が異を唱えた。


《た、隊長ッ、自分が何を言ってるか分かってるんですかッ!》

《分かっているともガンベット04。これは隊長権限による決定だ。これより、すみやかに移行する。聞いての通りだガンベット06、ノマウ・カスタム駆曹。ここからは貴様がこのガンベット小隊のリーダーだッ!》


 ガンベット01の突然の短絡的発言により、ガンベット06のパイロット、ノマウ・カスタムは言葉も出ない。


《どうしたッ? 返事をしろッ、ガンベット06!》

《……で、できません》


 間を置いて、それだけしか言えなかった。


《やれ。これは命令だ》

《で、できません隊長ッ!》

《やれと言ったッ! 拒否は許さんッ! それはこの小隊の全滅を意味するッ!》


 強烈な言葉に、有無も言わせない空気がさらに周囲を押しつぶす。


《こちらガンベト05、私も承服できません! せ、説明をお願いしますッ!》

《この作戦を立案したのがコイツだからだッ。05、ウェステン曹士!》


 隊長の言葉に、小隊メンバーの全てが沈黙する。


《あの母艦テストレスの超長距離射撃、あれを提案したのは貴様だったなッ? カスタム駆曹》


 ブリーフィングの時。

 手を上げたサイヲは、離れた場所でどこか迷っている様子のノマウを見て進言を促したのだ。


《ガンベット06。お前だけがこの状況を予測していた。つまり、今のこの状況で物事を最も正確に把握しているのキサマだという事だッ! やれるな? ガンベット06、タクスネーム、ガンカスタム!》

《……っぅ……》


 それでもノマウは怯んで沈黙している。


《た、隊長! こんなヤツの命令で俺たちに死ねと言うんですかッ?》

《そうだッ! 死ねッ!》


 仲間達の苦情を受けているにも関わらず、上官の非情な命令は継続される。


《すまんが、コイツの命令で俺達は死ななくてはならない。それが非力な者たちの戦場の定めだ。それが嫌ならば混乱するなッ! 現実眼を身につけろッ! それができないから俺たちはコイツの命令で死ぬんだッ!》


 非常な命令は、なおも執拗に続く。


《いいか? カスタム駆曹? この状況を作り出したのは貴様だッ! 貴様がこの戦況を作り出したのだッ! その為にこれほどの状況をたった一言で作りだした貴様には、この戦況を鎮静化させる義務が発生する! ……返事はッ?》

《……ぅぁ……は、は…………っ、や、やっぱりダメですッ! できませんッ!》

《カスタム駆曹!》


 決断が出来ない無能な一兵卒の優柔に、貴重な時間はどんどんと削られていく。


《……ではガンベット06。次の戦況予想はできてますか?》


 ここでガンベット07、サイヲからの言葉が届く。


《サ、サイヲくん……?》

《ガンベット06。おしゃべりをしているヒマはない。次の戦況予測は?》

《つ、次の?》

《そうです。次のです。この状況……アナタは予測出来てたんでしょう? なら敵の次の行動だって予測できるはずだ》

《ガ、ガンベット07……》

《……お前っ……》

《……敵が……来ますッ》


《 《 《 》 》 》


《て、敵が来ますッ! 迎撃準備を急いでくださいッ! ダメだッ! テストレスが狙われているッ! 計画を阻止したテストレスの狙撃能力を、この作戦を立案した敵の計画発案者は無視しないでしょう。即座に潰してきますッ! 直ぐにテストレスに警戒と迎撃準備をッ!》


 そこで警戒アラートがけたたましく鳴った。


《どうやら時間切れのようです。来ますよ》


 全てを覚悟したサイヲの言葉。


《ガンベット06。指揮を》

《ガ、ガンベット07……サイヲくん》


 通常の六倍の速度で近づいてくる敵の機体……。その名は、赤い流星のファイア。



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