#34 超長距離艦砲狙撃、直撃



 HUDハッドに投映された敵性表示点エネミーアイコンが、点滅しながら北上してくる。北上とは言っても投影された画面上では上から下へと南下している様子となるのだが。


《敵斥候部隊、接近。距離70》

《敵艦隊の位置はわかるか?》


 それが分かれば苦労はしない。敵艦隊はほぼ敵本隊を意味する。その敵本隊の位置がわかればそれはこちら側の圧倒的優位を指す。


《……ガンベット07からガンベットリーダーへ。QIによる想定位置情報なら割りだせます》

《……傭兵枠か。……そいつの確実率は教えてもらえるのか?》

《現在の情報確実率52.7%》


 これは参考戦術情報だけでみれば、かなり高い数値だ。概ね二分の一の確率で正答となる。

 本来であればこの正答率は100%なのだが、ここは実力隠蔽の為に敢えて正答率は下げて提供しておく。


《敵艦の位置は丁度、斥候部隊の後方50を予測……か。状況判断としては妥当だな。ガンベット03へ、この情報を母艦に報告しておけ》

《この情報をそのまま送るんですか?》

《そうだ。それで母艦は撃つさ》

《こんな未確認な情報で、そんな大事なことをッ?》

《だがウチの艦長は撃つだろうよ。状況予測の内容が内容だ。ウチの艦長はこれを絶対に見逃さんよ》

《こちらガンベット06、あれは私の考えすぎでした。ですからもう考えるのは……》

《それを決めるのは艦長だ。お前じゃない。黙って命令に従え》

《ガンベット06、了解》

《ガンベット02‐05、07、了解》


 各機の返答のあと、コクピットのHUDハッド上では敵の斥候部隊が更に接近していた。


《敵、斥候部隊さらに接近中、距離50》

《母艦テストレスより入電、敵艦隊との距離がガンベット小隊より距離80に縮まったら主砲発射との旨。発射方向ヘディングは二時方向》

《ガンベットリーダー了解。各自、待機を継続。別命あるまで洋上待機》

《ガンベット02‐07、了解》

《敵、先行部隊。距離40まで接近!35、……33、32、31、30!

敵艦隊の想定位置、自機小隊より距離に80到達しました!》


《後方、超温エネルギー反応収束! 母艦テストレス主砲発射準備に入ります!》

《こちらガンベットリーダー。観測を継続。テストレス照準方向の障害物等の異常の有無を調査しろ》

《テストレス主砲照準方向に異常なし。やっぱり何もありませんよ。誰もいません! あんな所に撃ったって無意味ですッ!》


《テストレス主砲エネルギー充填臨界! 発射まで10、9、8、7、6、5、……3、2、1、

テストレス主砲、荷電粒子砲発射しますッ!》


 後方の旗艦艦隊の右端、右翼の先端で何かが光ると横に奔った。

 そして一直線に右端の海の対岸へと直進して消えていき右側の海岸線の一部に直撃すると被弾直後の爆発の光を霞の中で放つ。


《右、海岸線にテストレス主砲発射、直撃ッ! 荷電粒子砲の直撃光を確認しました。……え? これは……、そんなッ》

《どうした? ガンベット03。詳しい観測状況を報告しろ》

《ゆ、誘爆光を確認っ! 繰り返すッ! 誘爆光を確認ッ! 規模大多数ッ! 兵站部隊の模様! 待ち伏せだッ! 敵はこんなことを考えていたッ?》


 ……待ち伏せ。

 敵は、こちらが通り過ぎるのを待ってから兵站という補給を利かせた挟撃を図っていたのだ。



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