第三番管区艦隊戦 ガンサイド艦隊VSガンレーン艦隊

#32 出撃



 カミハを格納しているハンガーの面積ごと、床は移動していく。

 艦内の自動の大型昇降機能付きエスカレータ。これで艦上の滑走路艦盤かんぱんまで出るのだ。


《次、ガンベット05。出撃》

《了解。ガンベット05、カタパルト発進》


 先に滑走路に出た他の黒い機体。

 空気の抜ける様な巨大な衝撃とともに重い質量が遠くへと突き抜けていく音がする。艦内を揺らす小刻みだが強烈な振動。艦盤滑走路カタパルトによる強制出撃は、常にこれだけの衝撃を与えるのだという。


《テストレス艦橋よりガンベット07へ。タクスネーム、カミハ。貴機の発進が近づいています。準備はいいですか?》

《大丈夫です。いつでも行けます》

《テストレス了解。ガンベット06が発進位置から出撃した後、滑走路うえに誘導します。

その間に再度、発進準備の確認をお願いします》

《カミハ、了解》


〝ガンベット06からテストレス艦橋へ。機体、配置に着きました〟

《テストレス確認。ガンベット06、強制加速器への機体固定完了。安全装置解除、電磁カタパルト正常作動、臨界数値3、2、1、制動アンカー解除! 発艦!》

〝ガンベット06!ガンカスタム出ますッ!!〟


 ノマウ・カスタムの乗機ガンカスタムが逆V字型をした矢じり型の甲板滑走路の片側から発進して駆け抜けたことを示す振動が伝わってくる。


「サイヲ。ガンベット06の出撃シークエンスが終わりました。次はワタシたちの番です」

「わかってる。カミハ。艦橋からの指示を待つ」

《ガンベット07へ。貴機をカタパルト発進位置へ誘導、配置します》

《ガンベット07、了解》


 機体を載せている艦内ハンガーと同じ面積の足場が動いた。ゴウンゴウンと横にスライドしていき、艦内構造の頑強な強度を表わす鉄骨と鉄骨の隙間から暗い水平線の海が見える。


「カミハ、機体圧力耐久確認」

「機体圧力耐久値、要求値以上を確認。前輪・後輪超伝導圧、規定値で固定しました。カタパルト発進と同時に展開させます」

「よろしく。先に出撃したのはガンベット隊の04と05、そして06だな?」

「我々07の出撃後に、それぞれ残りの03~01までの全3機が発艦予定」

「全部で7機のガンベット小隊。この隊に紛れながら、向こうの出方を窺う。今の所、作戦はこれだけだ」

「もう少し機転が欲しい所ですが」

「そんなものをオレに求めないでくれ。おっと外に出るぞ」


 小型乗用車ほどの大きさしかない長方形の黒い機体、鉄の棺桶、

 ガンハッド-GUNHUD-3258が、黎明の中の風が吹き荒ぶ逆Vの字型の滑走路甲板上に出た。


《艦橋よりガンベット07へ。左舷滑走路への到着を確認しました。カタパルト固定を確認してください》

《カタパルト固定確認》

《電磁カタパルト起動させます。発進の衝撃に備えてください》

《07了解。カミハ》

「耐ショック振動係数予測準備完了。Gシートベルト作動」

《電磁カタパルト起動完了。制動アンカー解除は07の準備完了後に発動》

《ガンベット07、発進準備完了!》

《電磁カタパルト作動させます。初陣を考慮しカウント権限を07に譲渡》

《艦橋に感謝を。電磁カタパルト制動アンカー解除まで3.2.1、お願いします!》


《発艦!》


 強烈な勢いとともに、圧力を溜められた加速器が制限を解かれて載せていた黒い機体を逆Vの字型の滑走路上から滑り上げて海上へと突き飛ばした。

 火花と白い煙を巻きあげて甲板滑走路から弾き飛ばされた黒い機体は、波打つ洋上を小石のように弾いて飛んでいく。


「カミハ、加速」

「了解サイヲ。現在、先行している3機は速度50で航行中」


 通常の走行速度の範囲内だ。それなら追いつけるだろう。自軍艦隊旗艦と敵勢力艦隊との距離は120。

 会敵想定距離はその半分の60距離。


 洋上を滑り抜ける鉄の黒い棺桶のコックピットに乗りながら、サイヲは戦闘準備の左右のスロットレバーを握った。


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