#30 艦内通路



 狭い艦内通路をカツカツ歩いて機体のあるハンガーへと急いで向かう。

 出撃が近い。


「なんであんな事を言ったんですかッ?」


 後ろからついてくる、この艦の正規兵であるノマウ・カスタム駆曹が聞いてきた。


「なんでって、それが必要だと思ったからです」

「必要? 必要だからって、あんな根も歯も無い、根拠さえ無いことを誰も信じるわけがありません! キミの所為せいでボクはとんだ赤っ恥を掻いた!」


 自分の背中を睨んでくるノマウからの視線を、サイヲは無視する。


「恥かどうかは戦闘後に聞きます。予測できる可能性は少しでも排除しておきたい」

「下らない可能性だ! 万に一つもあり得ないッ!」

「それを決めるのはこの世界だ。君じゃない」


 立ち止まった真剣な目を向けられて、意表を突かれたノマウは立ち止まった。


「き、君は……?」


 狼狽えながらサイヲを見るノマウは怯んだまま次の言葉を見つけられない。


「戦闘の結果を決めるのはこの世界です。この世界で起きる現象だ! それが全てですッ! そして、この戦闘にはぼくも参加する。いいですか? 今まで黙ってましたけど、戦闘に参加するからには僕だって命を懸けなくちゃいけないんです。だったら黙っていませんよッ? 想像できる可能性は全て潰しますッ! 絶対に潰すッ! その為の情報源はどんな些細なことであろうと見逃しませんッ。そして当然。あなたから出てきた案も非常に有用で興味深かった。他の誰が信じなくても……、ぼくだけはキミが言った可能性は考えるに値する価値があると思っているッ!」


 断言するサイヲを、ノマウはまだ信じられない目で見る。


「ぼ、ぼくが作戦会議の時に言った不安はやはり只の不安でしかない。それにもし、そんな事が本当に起こったとしても、他の友軍艦や艦載機たちが臨機応変に対応してくれるかどうかもわからないのに……」

「だから単独で行動するんでしょ? ボクたち巡洋空母艦テストレスの乗組員メンバーだけで……」


「……ほ、本当にやる気なんですか……?」

「当たり前でしょ? ぼくはその気です。ぼくはノマウくんの言葉を信じてる。頼りにしてますよ。きみには、ぼくには持ってないモノがある……ッ!」

「……も、持っていないもの……?」


 笑うサイヲをノマウは怪訝な表情で見た。

 それでも笑顔のサイヲは、それ以上の答えを発しない。


「……行きましょう。戦闘中でも会話はできる。近いんでしょう? 第三番管区、夜端なんたんから迫りくるガンレーン艦隊の艦影が。総員への第最種戦闘配置は発命された。ぼくたちも持ち場に就かなくちゃいけない。ぼくがいま言える事はそれだけです……。カスタムさん。……以上ですディスメスト……」


 言って、ハンガーに向かって急ぎ足で進みだしたサイヲに、

 ノマウは何も言えずに背中を追っていく事しかできなかった。



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