機中海《第三番管区》

#29 ブリーフィング



機中海ガンマリーン、第三番管区シード。機中海の中で、唯一の黎明エリアを含んだ昼端ほくたんに位置する第三番管区は、E6の夜極圏なんきょくけんから数えて最も宵道せきどう寄りである夜半球の昼端ほくたんE1エリアと、昼半球の夜端なんたんW1エリアの間にある宵道直下を水道いりぐちとする、この鉄地球ガンアースが誇る最大の海域だ。今回、実施される第72回、第三番管区艦隊戦は、この第三番管区の上端ほくたん下端なんたんにあるガンサイド艦隊と対岸都市のガンレーン艦隊による正面戦闘を開始させる事によって予定内容されている」


 暗がりの中で教鞭をとりながら、作戦指揮官が、今回の作戦内容を戦闘指令室CICに集まった乗組員たちに説明する。


「……戦闘内容も例年通りだ。相手側の対艦戦力とこちらの対艦戦力の純粋なぶつかり合い。

旗艦は両艦隊ともに一隻のみ。この旗艦を先に落とした側が勝者だ。駆逐艦、巡航艦、空母艦の数ともに、同じだけ登録申請されて中立役のガンハーバーによって許可され両艦隊の戦力差は均等に監理されている。第三番管区の海域の地形データ及び気象データにも変更はない。変更があるのは、向こうの作戦の出方だけだ。もちろん、それはガンサイドこちら側にも同じであると言える。前回のガンレーン側が取った作戦内容は知っての通りだ。なんの作戦もなく、ただ力任せの総力戦の勃発。巨大戦艦同士による大艦巨砲至上主義的な戦闘状況の実現だった。直進するビーム砲とビーム砲の発射と被弾の繰り返し。結果は被弾率の多かった我々ガンサイド艦隊側の敗北だった。改善点は命中率と回避率の向上。この一年、その訓練はやって来たはずだ。現在までの我々とガンレーン側の勝敗数は24勝48敗で我々ガンサイド側の負け越しだ。そこで皆に聞きたい。我々ガンサイド艦隊が目指すものは勝利かッ?」


 作戦卓を叩いて、作戦会議室に集まった椅子に座り並ぶ乗組員たちに聞く。


「「「「いいえ!」」」」」


 一斉に放たれた言葉こたえを聞いて、作戦指揮官も満足そうに頷く。


「その通りだ。我々ガンサイド艦隊は勝利には固執しない! 我々は勝利する事よりもこの戦闘に参加する全艦隊乗組員の無事帰還だけを重要視する! 我々は前回のヤツラの作戦行動を、今回の作戦行動の参考にはしない。こちら側の行動だけで、主導権を奪ってみせるぞ! できるかッ?」

「「「「はいっ!」」」」

「……よろしい。本作戦の、主な作戦方針は以上だ……。さらに本日、我々ガンサイド艦隊の旗艦カー・ライラムより再度入電があった。艦隊旗艦艦長フルブライト・ロア将佐から下った指令は、艦隊陣形を現在の魚鱗型で保ったまま直進し、敵艦隊旗艦アウレーラと差し違えることッ。

我々ガンサイド艦隊の末端! 空母艦テストレスもこれに続く! 難破船レックシップと名付けられた本艦の汚名を濯ぐ貴重な機会だっ! 君たちの本作戦の行動に期待するッ! 以上だ! 他に質問はあるかッ?」


最後の一声で、思ってもみない手が挙がった。


「……ッ?……、キミは確か……今回、新規参加したサイヲ・フッテイルくん?」


仮住まいの上官に一礼して、サイヲが背を伸ばして起立すると……、皆が注目する前で、気になっていた質問かんそうを言った。



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