#28 難破船



 潮の風を受けている。巡洋空母艦の滑走路艦盤かんぱんの上。


 進行方向に向いて逆Vの字型の滑走路艦盤地面は、それ自体が巡洋空母の特有の形を象徴する矢じり型小型空母のシンボルだった。


「戦闘が始まります」

「はい、わかってます」


 砂色の作戦服姿のノマウといつもの鼠色をした整備服のサイヲ。二人して海を航行中の艦の滑走路上から水平線を見ていた。


「キャベツ好きなんですか?」


 シャクリと齧ったキャベツの芯を不思議そうに見て言う。


「よく生で食べられますね」

「好きなんですよ。ぼく」


 三日月のような細く白いキャベツの芯だけをブラブラ咥えてもう一度シャクリと噛み切った。


「味をなにも付けずに食べるなんて僕には……」


 できそうにもない、と静かに笑う。


「慣れですよ。ひとことで言ってしまえば」


 何事もそれで済むんだとサイヲは思っている。

 ただ……慣れてはいけないこともこの世にはある。


「敵の戦闘力はまだわからない?」


 サイヲの声にノマウは頷く。


「向こうもこちら側の戦力は分かりません。しかし、戦闘力はほぼ五分です。そうなるようにいつもこの大会では設定されている」

「問題はその戦力の種類の分布と割合」

「当然です。狙撃か、弾幕か、近接戦か。戦力は五分でも、その種類の割合まで五分ではない。

その為に全ての可能性は考えなければならない」

「でも結局、海上戦なんですよね?」


 サイヲの声にまたも頷く。


「基本的にこの大会は艦隊戦です。その為に接近戦だろうが遠距離攻撃だろうが、それは全てこの水面上で行われます。僕たちが搭乗しているこの艦、テストレスの二つ名はご存知ですか?」

「二つ名?そんなモノがあるんですか?」


 サイヲの問いにノマウは頷く。


「二つ名というかアダ名ですね。艦長は異名と言いたいみたいですけど異名と云うにはあまりよくない。この艦テストレスは、ガンサイド艦隊以外も問わず周囲からこう呼ばれています。難破船と……」

難破船レックシップ……」

「よく後方に下がってしまうからこの名が付きました。理由は様々です。故障。事故。ヒューマンエラー。気象条件。……なんにせよ。肝心な時には活躍できない。そんな不名誉な名なんですよ。これは……」

「そんな名前が……」

「ええ。ですから僕たちはいい加減こんな汚名は返上したいッ!」


 その為に始まる。


 いや、始めようとしているのだ。この遥か彼方の水平線の先で始まろうとしている機械によって仕組まれた戦い。艦隊対艦隊の戦闘決戦大会。

 その名は……。


「第三番管区艦隊戦」



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