#26 艦内、第7番ハンガー



 艦内第一階エリア1、第7番ハンガー。それが、この巡洋空母テストレスに、これから居住することになるサイヲとカミハに割り当てられた格納庫ハンガースペースだ。


「初めてチーム戦に加入した感想はどうですか?サイヲ」


 機体の中で内装の確認をしながら、嫌味なことを平然と聞いてくる機械だとサイヲは思った。


「チームメイトと仲良くするのには時間がかかりそうだな」

「そんなのんびりした状態ことでいいんですか? 戦闘開始まで、それほど日数はありませんよ?」


 ……戦闘。そう、戦闘が始まる。海の上で兵器と兵器の使い方を競い合う戦闘が。


「……戦闘時の連携は大事だよな。でも、それをするにはオレたちの立場が傭兵なのがなぁ……」


 傭兵枠マセーナリー。一回こっきりの仮住まいの存在だ。戦闘の度にコロコロと所属を変える根ナシ草。そんな人間に、自分の命を預けてくれるような仲間はいない。


「……傭兵は……自分の命を消耗品どうぐにされる事を最も要求される役職です」


 その通りだ。形勢が悪くなった際に、組織から最初に切り捨てられるべき人間。

 それが傭兵という人間の役割だった。


「正規の軍人たちから信頼を勝ち取る為には、オレたちの命を使うしかない。攻撃時には先陣を切り、防御時にはシンガリを務める。つまり、コミュニケーション云々のまえに自分の力を身につけろって事なんだよな。結局やることは変わらない」


 傭兵が発する言葉の説得力は、持っている力で左右される。

 このふねの人間たちから信頼を勝ち取りたければ、自分の行動を見せつけるしかない。


「前途は多難そうですね」

「おかげさまでな」


 機体内部に散らばるスイッチや起動状況などを確認して、来たるべき戦闘に備える。


「戦闘はこっちも向こうもEI対EIだ。とはいえ、この大会の最大の特徴は情報判断だけは全て人任せにさせられること。EIは人間の判断にしたがって、攻撃と防御を躊躇いなく行うという仕組みだ。恐い行事だよな。誰だよ。こんなこと考えたヤツ」

機械ワタシたちですね」

「そして、それに賛成したのが人間オレたちだ、……と」


 最後のスイッチをONにして、全てを起動させる。


常温核融合メインエンジン出力正常。しかしこの起動は指令艦橋ブリッジからの許可が下りていません。警告が来ますよ」

「……気付いてるヤツはいるか?」

「……反応なし。ですがこれは信頼関係に関わります」

「情報は共有する。ただし、こっちの情報はこの艦に与えることはできない。索敵能力はこっちが上だ。オレたちが本気になれば、正面から衝突しても、この艦は簡単に落とすことが出来る」

「戦闘力の偽装に問題はありません。敵味方ともに、我々の戦闘能力は「斥候」どまりと認識中」

「命令を受けたら偵察と撹乱の役割に徹すればいい。わかったな」

「それほど上手くいくでしょうか?」

「上手く行かせるんだよ。死人が出そうになったら、戦闘中のどっちか側のEIがなんとかするだろう。この戦闘大会は『死人を出すのが目的じゃない』からな」


 搭乗席コクピットの操縦桿の反応速度を確認して、出力を落とした。


「敵のメンバー変わってないな?」

「変更なし。一足早く出港したそうです」

「なら交戦するときは近そうだ。ヘタをすると裏を掻かれるぞ」

「その時は混戦ですね」

「そうさせない為にも、こっち側に付いた。なるべく態勢は立て直してみせるさ」


 サイヲの断言にカミハは沈黙で答えた。



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