#23 宿命のライバル



「こんにちは」


 向こうから挨拶をしてきた。防波堤の先から水平線を見ている人影。

 それはやはり少年だった。

 サイヲによく似た背格好の少年が、サイヲを不思議そうに見て、視線をまた海に戻す。


「海を見に来たんですか?」


 海を見ながら、その少年は言った。


「……いや、こっちに歩いていく人影を見たんで何かあるのかなって気になって」


 正直な動機を言って、その場をやり過ごす。サイヲは同年代の同性との会話はあまりした事がなかったから、どう言って返せばいいのか分からなかった。


「……特に何も無いですよ。ぼくは人混みがすごく苦手なんで、こちらへと逃げてきて歩いてきただけで……」


 やさしい目をして言う。サイヲは答えに窮したが、相手が敬語を使ってきたので自分も敬語で返すことにした。


「ここへは何を目的に来たんですか?」

「艦隊の乗組員です。このガンサイド側の……」


 サイヲは驚く。この歳で艦隊の乗組員。ならば正規の軍属だ。正規の軍属の軍職少年。


「驚かないんですね」

「……いや、驚いてますよ。軍人さんだったなんて……。しかも、その歳で……」

「……なんか成り行きでこうなっちゃって。本当は軍に入ろうとか全然、思ってなかったんですけど。機械を触っていたら、なんかこっちの方に自然となっちゃいました……」

「それだけじゃ普通、軍属には入れないでしょう?」


 サイヲが言うと、防波堤の先に立つ少年がコンクリートの一段、高くなっている場所に上がって立つ。


「なっちゃったんですよ。一昨年の大会だったかな。流れで参加していたらそこの船の人たちとウマが合っちゃって。それでそのまま居ついて今の状態っていうワケです」

「歳はいくつなんですか?」

「ぼくですか?今年14です」

「ボクと同じです。それで軍属……」

「そんなにショックなことですか?」

「ボクにとってはかなり……」


 自分と同じ歳の少年が、すでに兵器を扱う仕事をしている。


「そちらは今回の大会から?」


 立っている少年の素朴な問いに、サイヲは頷いた。


「じゃあ、一般参加枠ですか。ぼくの乗っている軍艦フネに当たったら、よろしくお願いします。本当を言うと、毎年、違うが入ってくるのって疲れるんですよね」


「でもそんなに多くないでしょ」

「数の問題じゃなくてやりやすさの問題です。知らない人が入ってくると、それだけでコミュニケーションが取りづらくなるっていうか」


 まあ、そこは分からなくもない。


「乗る軍艦フネが決まったら、気をつけてみます」

「はい。よろしくお願いします」


 お辞儀をして今さら気づいたように笑う。


「そう言えば……まだ名前を名乗っていませんでしたか?」

「お互い言っておきますか?また後で会うことがあるかもしれない」

「ぼくはカスタムといいます。ノマウ・カスタム」

「カスタムが名前?」

「違いますよ。ノマルが名前なんですけど、みんなぼくの事はカスタムって呼ぶんで」

「……ノマウ・カスタム……。ボクはサイヲです。

サイヲ・フッテイル」


「サイヲ・フッテイル……。ちょっと変わった名前ですね。あ、それはぼくも同じか。すみません。……ははは。では、また会ったら、今度はゆっくりお話しでもしてくれませんか」

「はい。是非」


 それを聞いて微笑わらうと、潮風に当たっていたノマウは下の地面に飛び降りた。



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