#21 軍艦フリート埠頭



 数日後に開催される大会の効果で、港の街は賑わっていた。


「当選通知は?」

「まだです」


 登録申請を済ませてからまだ一日しか経っていない。配属通知は、申請してから三日後に送られてくる。申請は昨日すませたばかりから、あと二日はかかる計算だ。

 これからまだ車中泊をして待つことになるのかと思うと欠伸あくびが出そうだった。


「待ってるだけ。っていうのも辛いな」


 他に面白そうだと思うことは周囲にもありそうにはない。今もただ恙なく時間が流れているだけ。周囲では他にも止まっている車がある。


「港でも見てきたらどうですか?」

「港なんか観てきて何があるんだよ?」

「海は希少です」

「データを保存してる機械の言うことじゃないな」

「機械に冷酷でいろと?」

「痛みがわかる機械がいるとしたら、随分な地獄だと思うぞ」

「それはパートナーによります」

「万能な機械をもってオレは感謝してるよ」

「戦闘だけは侮らないでください」

「なるべく気をつける」


 そんな当人たちにしか分からない会話を続けていく。


「……向こうの様子はわかるか?」

「回線の警戒レベルは通常。侵入はできました。予定通りのようです」


 それを聞いて少し黙る。


「向こうが予定通りなら、こっちも予定通りに行くだろう。どうやらこの事は、あっち側もこっち側も気付いていない。なに考えてんだか」

「仕掛けがあるのでしょう。現在準備中と断定します」

「仕掛けがあると分かっていても、それが何なのかが分かってなくちゃあ話にならない。

おまえ、分かるのか?」

「残念ながら種類までは……」

「ならこっちも警戒するしかないな。何かが起こってから慌てふためけばいい」

「その時点で手遅れにならない自信がおありで?」

「手遅れになった時の挽回の方法……知ってるか?」

「いいえ」

「相手が想像してなかったことをするだけさ」

「そんな手段は毎回使えませんよ」


 まるでため息でもしそうな口調だった。機械がため息をする?それはそれで面白そうだったが……、そうなったらなったで恐ろしくもある……。


「向こうの動きは逐時、気にしておいてくれ。とは言っても、どうせロクな情報も流れて来ないだろうけどな」

「流れてきた時は要注意ですね」

「わかってるじゃないか。機械同士で情報戦なんて初歩の初歩だからな」


 言ったところで、車のドアを開けた。


「どうしたんですか?」

「やっぱり外の空気を吸ってくるよ。お前も一緒に来るか?」

眼鏡アイグラスがあれば位置通信で繋げてHUDと接続できます」

「ダテ眼鏡でもつけろってか?」

「似合うと思いますよ?整備士さん」

「整備工場でもないところでゴーグルしてもおかしいよな。ポケットには入れておく。それで追跡できるか?」

「十分です」

「ならそれで手を打つか。なかなか機械おや離れができないな」

「子離れできないよりマシです」

「ま、そんな時もいつかはくるさ。問題はそれからをどうするかだ」

「どうするんです?」


 機械の声にサイヲは黙る。


「……とりあえず海を見てくるよ。それから考える」

「いってらっしゃい。気をつけて」


 機械の言葉を最後に、ドアを閉めた。



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