黎明の機中海

#20 海沿いの街



 昼のW1エリアと夜のE1エリアの狭間にある宵道せきどう直下の海域、機中海ガンマリーン第三番管区、ガンフリート海湾。そこは、この惑星、鉄地球ガンアースの中でも飛び切りに貴重な水に満ちた地域だった。機械によって全てが乾上がった地表では岩塩さえ存在する事は限りなく稀である。水は極くわずかに残るだけであり、ガンアースの総面積の6分の1ほどもあればいいと言われていた。


「正確には、現在の全海面積はガンアースの7分の1。それでもあるほうだけど海の部分はもう夜半球にしか存在しない。昼半球側にもあるとすれば昼半球のもっとも宵道せきどうよりである、このW1と夜側のE1の境にある港湾都市ガンサイドが位置する第三番管区シードだけだ」


 地図から目を離して独り言のように呟く。小型機動機体の座席にもたれながら、海沿いの車道みちから見える暗い水平線の流れる車窓を眺めた。


「あと10分で第三番管区北部にある港湾都市ガンサイドに到着します。目的地のリクエストはありますか?」


機中海ガンマリーン軍艦艦隊埠頭フリートハーバーに行ってくれないか」

「了解」


 サイヲの言葉で、車道を走る機動機体のカミハは幾つも枝分かれする曲線道路の中から目的地までの道を間違えることなく選び、寸分の迷いもなく海岸線の道から広い都市部に入り、海の近づく駐車場のひろい広場で車を止めた。


「登録してくる。ちょっと待っててくれ」

「気をつけて」


 サイヲが車から出ると、潮風が吹きつけた。海と空の匂いが風に乗ってやってくる。

 ガンフリート・ハーバー。大型の軍艦が集まるこの港では、近々、開催される大規模な大会イベントの参加受付を行っていた。


「参加希望者はこちらへお願いします」


 海の岸壁に停泊する幾つもの軍艦を背後にして、テントもない長机にできている長蛇の列の最後尾に回った。


「次の方どうぞ」

「お願いします」


 やっと順番の回ってきたサイヲが登録用紙を渡すと、渡された受付の人間も首をかしげて難しい顔をする。


「未成年の方は参加できません……」

「年齢は14です。年齢制限なら大丈夫なはずですが」

「この大会の主旨は分かっていますか?」

「わかってます。登録用紙に記載している機体で参加します」


 受付の女性が、書類の記入事項に不備がないかを確認して、もう一度サイヲを見る。


「参加できる勢力は二つあります。その、どちらか一方を今は選択できますが……。一度、登録を済ませると後で変更はできません。本当にこちら側でよろしいのですか?」

「はい。こちらでお願いします」


 サイヲの返答に、受付の女性も書類の端を机で整えて脇に置く。


「申請を受け付けました。ご参加ありがとうございます。三日後、登録された機体番号に抽選結果の連絡を入れますのでそれまでお待ちください」


 アナログな受付を全て済ませて、サイヲはその場を去った。

 昼と夜の狭間で、灰色の雲が空を覆っている。それでも陽射しの角度が変わることはない。



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