#15 カミハとサイヲ



「形式名、ガンハッド-GUNHUD-3258。小型乗用機動機体。機体の固有ネームは「カミハ」。機体とEPUはオーソドックスな標準性能。今どき、こんなカサ張る自動機械を連れてるのはキミぐらいでしょ。サイヲ」


 20台は入る整備工房ガレージの一角で、相棒の機体カラダと格闘している少年を眺めながら整備服少女は笑っている。


「……そっちは学校いいのか?」


 少年の問いを聞いて少女は笑みを増す。


「大丈夫。サイヲがこっちに予約してるのを知って、休みにしちゃった」


 クスクス笑いながら、ガレージの中の駐車スペースを区切るカウンターの机に行儀悪く座っている。


「学校より面白いことなんてここにはないぞ」

「サイヲは学校に行かないの?」

「行かない。それよりもやる事がある」


素っ気ない返事に、同じ整備服姿の少女は驚いてみせる。


「そこだよねー。学校に行かない子はけっこういるけど学校に行く以上の目的を持って学校に行かない子って、大人でも滅多にいないもん」


 勤労、教育、納税。その全てを機械が執行するこの都市まちでは人が娯楽を見つける事さえ困難を極めた。


「ちょっと、そこどいてくれ」


 不愛想なままサイヲが近寄ってくると、カウンターの上に座っていた整備服の少女のパルサを手であしらった。


 不機嫌な少女がどくと、少女が座っていたベルトコンベヤーが同時に動き、壁の奥から小さな金属の装置を運んできた。


「なにそれ?」

「小型のエネルギーユニット」


 手のひらほどに治まるほどの小さなキューブを取り上げて、サイヲは自分の機体の後方に回り込むと後部装甲リアハッチを開ける。


「これ以上、出力をあげるの?」

「……長時間走行したいんだけど燃料エネルギーが足りてないんだよ。だからこうやって走行時間を稼ぎたくてさ……」


 本当の目的は違うのだが、この少女の前ではそう言っておくことにする。


「小型の核融合リアクター……積んでるんでしょ? そこまでやると走行用と判断されないよ」

「それを判断するのはキミじゃない。そして申請はしてあるし、許可が下りて品物は届いた。問題はないはずだ」

「だからって、睨まれても知らないからね?」


 無鉄砲なまま行動すると上層部の機械意思に睨まれて監視される。だから不用意な行動はできない。人は既にそのことを学習している……。


「機械に睨まれても……情報が記録されるだけだろ」


 ……それだけだった。目立つ行動をして、機械に目を付けられるとそれ以後の行動結果が記録されていく。


 そして、ある一定のラインを超えると……、その行動履歴が暴露される。そこで暴露された人間は追い詰められて、自分のこれから先を再決定する。それだけの話だった……。


 そんな事を考えていると、格納庫ハンガーの天井部に取り付けられたテレビモニターの画面が……ジジ……と切り替わった。



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