#14 機体チェック



 広い車庫ガレージ状の格納庫ハンガー内で、機体の確認テストをする。


「カミハ、再点検。右スロットルレバーと左スロットルレバーの車輪同期性ハンドリングが怪しい」

「サイヲ、操舵性に異常なし。左右スロットルレバーの可動速度と全車輪の可動角に差異は認められません」


 暗闇だった搭乗席コクピットを、室内灯で明るくして、操作系統を確認する。


「そうか? 初期定位置、ズレてる気がするんだけど」

「サイヲの感覚が鋭敏過ぎです。操縦桿とタイヤの連動誤差は0.04」

「それは、ちょっとあるほうじゃ……」

「スロットルレバーの入力開始からタイヤ駆動反応まで、命令伝達時間はおよそ0.0023。

許容範囲内です」


 機械の断言にサイヲは渋い顔をする。


「秒速10キロで走ってたら、そのロスで事故だな」

「超高速走行時に必要なのは、機体反応速度ではなく1秒後の状況予測です」

「10キロ先の1秒後を全て予測しろってか?」

「それができなければ事故です」


 機械は非情に断言する。


「……操舵系……やっぱり譲れないな……」

「努力はします。今の10分の1までは縮めてみせましょう」

「それでも足りないって言ったら?」

主人パイロットの気高い理想には付き合いきれません」

「おれは操縦者パイロットじゃなくて整備屋メカなんだが」

「ならば、もう少し内装にはオ洒落シャレに気を……。

この操縦席コクピット……アブラ臭いですよ?」

「機械に嗅覚があるなんて初耳だ」

「それは差別です。サイヲ」


 相棒の糾弾にしばらく黙る。


「悪かった。操舵性はよろしく頼む。動かして反応が遅いならともかく、初期位置でズレてると話にならない」

「修正を予約しておきます」

「ちょっと出るから。ハッチ開けるぞ」

「どちらへ?」

「……お前の外観の確認だよ。さっきオ洒落に気を遣えって言ったじゃないか」

「……サイヲ……」

「期待はするな。おれは今のお前の車体が気に入ってる」


 上部ルーフハッチを開けると、外の光が差し込んだ。



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