#13 第4ハンガー



 閑散とした電磁車道から整備工房の敷地内に入った。敷地内の一方通行の小さいS字車線に沿って徐行すると、整備場沿いの六番目の誘導線レーンで一旦、停車し、後向バックに切り替えて、格納工房の屋内駐車エリアの白線に合わせて後方リアを近づけ、停車させる。


「四番ハンガーに無事、停車しました」

「お疲れさん、比較的早く着いたな」


 車からの報告を聞いて、天井の開閉扉ハッチルーフが開く。


 そこをよじ登り、小型乗用車に近い大きさの黒い機体から降りて、少年サイヲ・フッテイルは背を伸ばした。


「んー、長い旅だった」

「所要時間は12時間と10分。まずまずですね」

「可愛くないな、お前。12時間っていったら人間だとすごくキツいんだぞ?」


 12時間、小型乗用車の車内に缶詰だったかと思うと、それはやりきれない。


「機体の状況は?」

「現在、確認チェック中。その間に彼女が来ます。心の準備を」

「ゲ、またか」

「また?」


 整備服ツナギ姿の少年サイヲの失言に、同じく青緑色の整備服ツナギを着た少女パルサが近づいてきて、腰に手を当てる。


「パ、パルサ……」

「久しぶり、サイヲ。どう、調子は? カミハちゃん」

「ワタシを気安く呼ばないでください。パルサ」

「はいはい。それで、今回はどこまで行ったの?」

「どこって、W1沿いを周ってきただけだよ」

「また夜沿いを徘徊してたワケ?いい加減にしないと睨まれるわよ?」


 手にしていた電子クリップボードを眺めながら整備服少女はボールペンで耳の裏を掻く。


「機体は特に異常なし。電子電圧系統も全て正常。情報検査チェック……、都市陣営こちら側からも入れるわよ。いい?」

「いいよ」

「問題ありません」

「よろしい」


 機械と少年の答えに整備服の少女満面の笑みを浮かべる。


「12から検査工程を開始、67までの検査終了。……走行履歴ログに異常なし。簡易的な検査はこれで終わったわ。ようこそ、ガンシティ・03サードへ。くつろいでいってね」


 笑顔を振りまいて、近づいてきた超小型フォークリフトの機械にクリップボードを渡す。


「……他にご注文はある?」

「特にない。何かあったら、また注文する」

「オッケー。じゃあ向こうから入都許可は下りたから、この第四番ハンガーと目の前の第四個室コテージは好きに使っていいわ。あとであたしも遊びにいっていい?」

「だめ」

「ダメです」

「ケチ」


 唇を尖らせて整備服姿の少女、パルサは去っていった。


「やれやれ、これでやっとゆっくり休めるかな?」

「シャワーでも浴びてきたらどうです?スッキリしますよ?」

「シャワーより風呂がいいな。カミハはどうする?」

「ワタシはここで様子を見ています。

車ですから気遣いは無用です」

「電子知能チップ、抜かなくていいのか?」

「必要なし。それよりも気を付けて下さい。コンタクトがありました」

コンタクト接触?」

「ガンシティ03の統知事セレーナ嬢からあなた宛てにメールです。……ホテルに来てほしいと」

「さっそくか。取りあえず無視しておく。今回の滞在時間は一週間だ。お前もそのつもりでいてくれ」

「了解。存分に英気を養ってください」

「……だからって女の子は呼ばないでくれよ。お願いだからっ」


 この機械は、それをやりそうだった。



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