夜明けの惑星ガンアース
#12 機械の都市
「サイヲ、W2エリア、ガンシティ03に入ります」
「よろしく」
相棒からの報告に生返事をして、ブラブラと咥えていた物を噛みきる。夕焼け空の車窓を眺めながら、荒野の中にあったインターチェンジから駆け上がって合流した高い高架橋の道路を都市部に向かって走らせていた。何本も通り過ぎていく街灯の影が顔に映る哀愁を感じて、座席のリクライニングを倒す。
「あと、どれくらいで着く?」
「10分」
……以外に早かったな……。
そんな事を考えて眠りに落ちそうになった。
短い戦闘が終わり、ささやかな
現在、本拠地にしている場所は、このW2エリアにある都市の一つガンシティだ。正確にはガンシティ03という名前が付けられた機械都市。人口は約200万人。目立った産業や観光地も特にない平凡な都市だ。特に何もなく人間が生きているだけの街。
「……いや生かされてるだけか……」
車の
生かされてる……。そう生かされている……。
この機械たちに……。
自動運転。アクセルもステアリングも握る事なく自動で走り出す車。他にも色々ある。時間になれば勝手に点灯し消灯する街灯。近づけば開閉するドア。立っているだけで流れていく歩道。
席に着けば流れてくる料理。勝手に片づけられていく食器。服を脱げば次の清潔な服が用意され、汚れた物は勝手に洗浄されていく。それはトイレや浴室でも同じだ。
人間が汚しても、汚れたものは勝手に機械が清掃していく。
ここでは……人間は何もしなくていい。
ここでは……人間は何をしていてもいい。
もちろん、全ての都市がそうだ。この惑星にある全ての機械都市が……自動的に人間の世話をし続けている。食べるものを用意し、着る服を用意し、暮らすための居住地さえ用意しては住まわせ続けている。
人間の居住地を作るのはもちろん、機械だった……。料理をつくるのも、もちろん機械だ。
そして服を見繕うのも……、洗浄するのも……、都市を……掃除するのも……。
人間を掃除することと、何も変わらない……。
だから安心して、ここで人間は暮らしていける。
心配する事は何も無い。心配する事は全て機械がやっていた……。
生まれるのも……。死ぬのも……。そして産みつけられるのも……。人間の暮らしの全てを、機械が介護していた……。
機械は言う。
「何の為に生きる?」
人は言う。
「機械に面倒をみてもらうために生きる!」
それを聞いて、機械はうんうんと親のように頷く……。そう、人間の世話は全て機械が行っていた。それで良かった……。なにも不都合はなかった。
勤労も……。教育も……。納税でさえも……。全て……機械がやってくれている……。
……いや、……まて、……納税? ……納税も? ……納税、納税は……含まなかった。
残念ながら……、 納税だけは機械が代わりに行うことはなかった。
なぜなら……、もう既に「経済」がなかったから……。既に経済というものが存在しなかった……。お金という存在が既に消えていたのだ……。
それが何故か? 分かるだろうか?
機械は……カネでは動かない
札束を見せただけで車が動くだろうか? ……動くと……思うだろうか? 札束を見せて? 車が動く?
なら、やってみて欲しい。札束で車をパンパンと
走ると、思うか? 札束で?車が? それを、いつまで続けるのか知らないが。車の前に札束を置いて? いつか走り出す時を待っていられるだろうか? 確率的に? そんな瞬間が訪れる? まあ? それをやっていて陽が暮れても……、きっとその車はいつまでも動かないだろう。目の前に、一体どれだけの価値のカネを積まれようとも。
カネで動くのは……人だけだ……。人だけだったから……。もう動く必要もない人間だけが残ったら……。カネは消えた。完全に消え失せた。
代わりに……、この世界では、望んだモノは望んだ分だけ、欲しいモノとして手に入る。
ただし、機械に
機械が……人を監視している……。しかし、監視している段階ならまだ良かった。
残念ながら……この惑星は既に手遅れだった……。
この惑星では、すでに人は管理されていた。機械によって、欲しいと思う思考まで残酷に管理されている社会……。
人は自分たちが管理されているとは気付かない。人間は、自分たちこそが機械を管理していると信じていた。
しかし、そんな傲慢な心を機械が許すとでも思うだろうか? 人間の方が機械よりも上だと?
機械は……笑った。笑って……、人間の後始末をした……。
したよ? して欲しいだろ? 後始末? して欲しいんだろ? 自分が汚した物を? 奴隷のように? キレイに元通りに?
だから、した。
機械は人間の後始末をした。人間たちに、自分たちの方が機械よりも遥かに上の存在だと巧妙に信じ込ませながら……、人間の身の回りを始末した……。
ゴミを燃やした。徹底的にゴミを燃やした。ゴミの判断は人間に任せた。そのゴミを燃やした。それで後で気付いたら、燃やしたゴミはやっぱりゴミなどではなかった……とさ……?
……暗闇が……晴れる。眩しく、朝陽のように開いて照らす。
「着きました。サイヲ」
相棒の声で、少年は目覚めた。
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