#05 四則演算
c²=E/m
「この式は弱い相互作用と電磁相互作用の二つの力を同時に表わしている。分かるか? c²=E/mとは、光は物質中のエネルギーである!っていう式だ」
放たれた言葉の意味に、倒れている少年は息をのむ。
「……へえ? この言葉の意味が分かるのか? そうだ。光とは物質の中にあるエネルギーの事なんだな? そして、物質の外にある光は当然? その物質そのものでしかない。それが弱い相互作用であり電磁相互作用でもある、この式の主張だ。じゃあ、ここでネタ明かしをしよう。さっき、俺はお前らの核爆攻撃の直撃をくらった……」
立っている少年の言葉に倒れている少年は聞き耳だけを立てる。
「その時に使った式が、あのm=E/c²だと言ったよな? そう。俺たちは核爆攻撃を受けた時のエネルギーを全て物質に変換した」
「……そんなことができるのか?」
溜まらず言葉を挟んだ横たわる少年は疑問しか抱けない。
「できるとも? ただし? その時には、基本相互作用の仕組みをいじる必要があるけどな? 俺はその時に、吸熱反応と重力相互作用を同時に使っていじった。だから今も無傷だろ? その時の力が何トンだったのかは知らないが、吸熱反応の出力を上げてやれば不可能なことじゃない。知ってるか? 吸熱反応が起こる時は、決まってその場の質量は必ず増えている」
「なんだとっ?」
倒れている少年が驚く顔に、立っている少年は笑いながら答える。
「増えてるんだよ。基本的に吸熱反応が起こった時は、質量は増えてるんだ。重くなる。おいおい? これも基礎研究だぞ? 気付かなかったのか?」
ポリポリ掻いて明後日の方角を見る。
「まあ、その話はいいや。吸熱反応を化学反応で引き起こすのは比較的難しい。化学反応は重くするより軽くする動きの方が向いているからな? なら、それは何故なのか?」
少年の試して見てくる視線に、横たわる少年は気付かないフリをする。
「……そういう所だけは察しがよくて助かるぜ。でもな。それはまだ後にしよう。ここではそれをこう言っておく。不可逆性、だとな」
少年は、倒れている少年を流し目で見る。
「不可逆性。こいつが、この世界での吸熱反応の発生をより難しくしている根本的な性質だ。なぜなら、この世界は常に冷えているから……」
空間に静寂が生まれる。
「この世界は、常に物が動いていく方向性が一方的なんだよな? そして、その一方的な方向性の動きは数字の挙動にも表れている。四則演算!」
言った少年がどこかを睨んだ。
「知ってるか? 四則演算の中では、可逆性の性質と不可逆性の性質が同時に偏在している。四則演算とは+、-、×、÷という四つの計算行動の事だ。算数のお話だよ? そしてこの四つの計算法則は、可逆性計算と不可逆性計算の二つにキレイに分ける事が出来る! わかるだろ? 可逆性がある計算方法は足し算と掛け算だ。そして、不可逆的な性質をもつ計算式は引き算と割り算……。そして、だ? 足し算と掛け算、引き算と割り算にグループが二つで分けられたなら?
それは当然、x軸とy軸にも分ける事が出来る」
少年の言葉で、倒れている少年が更に驚く。
「ここで可逆的な双方向の性質をx軸と置くと、不可逆的な性質はy軸となる。いうなれば、可逆的で自由な動きができるx軸が横幅で、不可逆性な性質であるy軸が縦幅になるんだな? さて? これが二次元性の仕組みだ。四則演算の法則性にも双方向的な横幅と、一方的な流れしか生みださない縦幅の動きがある。元に戻ったり戻らなかったりを繰り返す可逆性な足し算と掛け算が横幅で、一度起こったら二度と戻らない不可逆的な性質の計算式である引き算と割り算が縦幅だ。……これが数理論上での不可逆性な問題……。不可逆性は、どこに行っても付いて回る。
そしてこの性質はある、一つの法則性を示唆している。すなわち、可逆的な動きは、常に「増える時」だけであり。不可逆的な性質は全て「減る時」のみ発生していることだッ!」
少年の断言が闇を深める。
「この世界での不可逆的な動きはな? 全部、「減る」時だけに発生してるんだよ? 気が付かなかったのか? これが基礎研究だ! 不可逆的な動きは全て減法と除法によって成り立っている。これがこの世界の答えだ! そして、その反対である足し算を常に発生し続けることができれば? もちろん可逆的な動きも自由自在となる! だから俺たちは、さっきの戦闘でも加算を行った。お前たちからの攻撃が、加算になるように行動したんだ。とは言っても所詮は核エネルギーだから質量に換算したって、微々たるもんだけどな? 四則演算は、四則演算だけで、この世界の可逆性と不可逆性の性質を炙り出す。もちろん、それが四つの基本相互作用にも表れている。電磁相互作用。重力相互作用。強い核力。弱い核力。これら四つも不可逆性によって支配されている。そう。減る時だ。この四つの相互作用の時も、常に減る時に、不可逆性の性質が現われる。足すときは可逆性だろ? そして、その時に、ある一つの移動手段が発生して行われている……。気付いてるな? 増える時も減る時も。この世界では、ある一つの動きが発生している筈だっ!」
「……熱、か……」
倒れている少年が呟いた言葉に、立っている少年は笑う。
「その通りだよっ。じゃあお次は、この話からしようか? 熱力学第二法則……! さあ? お前らの基礎研究は、コイツをどこまで研究できている?」
両足で立つ決定の少年が、世界を面白おかしく試しながら見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます