#02 確率と決定の戦闘
右足のアクセルフットレバーを踏み込んで、黒煙の暗闇を抜けると、小さい鉄の影は夜の世界に飛び出した。
「敵主砲索敵を開始。荷電エネルギー砲照準、来ます」
「おい、出鼻で見失うんじゃなかったのかよ!」
「敵荷電砲、口径2キロ。左舷0.1キロ先から超速照準軸で追跡中……」
「ドップリ被弾圏内に入ってるじゃないか……っ」
敵座標を正面に捉えたまま走り抜ける灰色の荒原を、景観の開けた右斜めへと舵を切り速度を上げ、相手の射軸がズレることを期待する。
「充填反応消失。荷電砲11時方向より急速収束反応確認。発射まで残り1秒、今」
加速。右のアクセルフットレバーを更に踏み込んで、一秒前までいた位置を左装甲面に触れるスレスレの隙間で空間ごと貫いていく巨大な黄緑色の荷電粒子の砲撃閃光をやり過ごす。
「被弾熱伝動。左側装甲温度上昇20.4パーセント」
「もう一発、凌げるな。
「
「シャープ・シーフォー、シャープ・シーシク、シャープ・シーセブ!」
言葉と共に、右手で掴んでいるスロットレバーの更に壁側にある
「選択入力確認。第四、第六、第七相互作用管制システム起動。……システム
「……っくそ、忘れてた。距離設定は0.05。エネルギー保持時間も10秒に設定」
「了解。変換エネルギー維持距離0.05。エネルギー保存時間10秒セコンド」
……秒とセコンドって同じ意味じゃないのか?
そんな事を思っていたら、次のアラートが赤い警告色で
「次、敵荷電粒子砲第二波、5秒後に進行方向0.01先を
「このまま行く。敵荷電砲が背後を抜けたら射軸スレスレを進路変更して平行に転進したまま距離を詰めるぞ。その後、敵に直進しつつ、ヤツラの発射した側面エネルギーを同時に回収する」
「了解、敵荷電来ます。……3、2、1」
加速。と同時に照準の甘い荷電砲が背後を掠めて抜け、夜空が青空に照らさていく放電の雷光柱を目の当たりにしながら、自分たちも
荷電砲の渦巻く砲光の雷圧壁を、物質的な左壁にしたまま、電光壁に沿って射線の始点である敵座標を目掛けて突っ走る。
「敵射軸、左舷から速度秒速0.20で追跡中。こちらも直進したまま同時に横逃走しつつ同期したまま逃げ切ります」
「当然だ。ヤツラには出来ないがお前は出来る。避けた左側面からくるエネルギーは0.05の距離で回収したまま保持だ。熱量は10秒もてばいい」
「敵発射中の荷電砲消失、発生時間5秒。続いて敵、次弾充填。2.5秒後、真正面。来ます」
「左へ避けろ。
間髪入れずに三発目の荷電砲から狙撃された粒子柱が、右の真横を通りすぎて奔流する。
かつてない加速とかつてない衝撃を右側面で受けながら、熱変換効率を最大限に、機体との相対速度を増大させる。
「回収エネルギー変換効率100パーセント。回収固定、完了。第四、第六、第七相互作用システム稼働状態正常。左球弾、右球弾、いつでも撃てます。同時に敵にも反応あり、次弾充填を開始。発射まで……」
「その前に終わらせる」
目の前に迫った灰色の荒野の低い丘を高速で直進し、登り切った頂きから飛び上がった鉄の黒い棺桶は、放物線よろしく頂点から落下している最中に、
「敵、無線開放を要求」
「無視だ」
「敵、小型荷電機銃の射角変更。計240門で捕捉されています」
「好きに撃たせておけ。前面で受けた荷電エネルギーは両側の雷球に再配分、比率は5:5」
「敵、一斉掃射開始。前面展開中のエネルギー変換
「変換シールドは何秒耐えられる?」
「敵の荷電銃身と荷電砲身が加電熱で溶け切るまで楽勝です」
「待ってられない。ブっ放せ」
主の言葉で、敵の荷電機関銃の連射を正面で受けながら両翼に浮かせた黄色い雷火球を、空間収束させて加速、直進する二発の分厚い稲妻砲として発射し。
前方に高くそびえる黒い巨塔の中心点を二連続で閃光させ貫通させる。
「だからって相手も動力源は常温核融合だから、荷電砲で貫通されたぐらいじゃ爆発しないんだよなぁ……」
その為に、わざわざ爆発を巻き起こす為に第四相互作用である電磁相互作用が敵対象を貫通中にエネルギーを第六相互作用第七相互作用である強い核力と弱い核力に変換させて大爆発を引き起こす。
案の定。敵の黒い巨塔は、荷電エネルギーによって二連続で貫かれた瞬間に、中心点から一瞬で閃く光点を圧縮され爆発し、炎上しながら更に爆炎を巻き上げて崩れ落ちていく。
「敵、攻撃行動沈黙。内部救助行動の展開を確認。敵搭乗者は負傷したようです」
「なら戦闘は終了だ。敵の小型ドローンの被害状況は?」
「無し。全機無事です」
「大型」
「無し。全機無事です」
「オッケーだ。人間、機械も含めて死亡者なしッ!これが一番重要だなッ! あとは対ドローン用の電磁妨害は続行したまま破壊して散らばった敵本体の瓦礫が詰まった最奥部に入る。負傷した親玉の生体反応は?」
「確認。位置はそのまま。動けないようです」
「上々だ。敵に伝えろ。いまから会いに行くってな」
「意思伝達完了。安全は保証しないそうです」
「自分の身でも心配してろっつーの。行くぞ」
丘から地面に着地した機体の内部状態を確認して、屹立する岩山の如く高い山陰となった目の前の残骸の谷間を進み、反応のある中心部へと進んでいく。
破壊されてからまだ間がなくて当然だが。鎮まらない黒煙。赤い炎。先刻までの高速戦闘が嘘のように、周囲の景観は静かに、かつ穏やかに燻ぶり続けていた。進む道の両側に林立するのは鉄屑の瓦礫と残骸によって出来たスクラップの岩山と岩肌の塔。隙間の暗がりの道を縫う様に通り、小型乗用車の大きさしかない鉄の棺桶は移動していく。
「敵、生体反応まで距離が縮まっています。距離40、30、20……」
10という言葉が聞こえた時。遠くの壁に蛇行して消える瓦礫の道の先から灯りが漏れた。蛇行する道に沿って機体を進めていくと、周囲と残骸と瓦礫の壁で覆われた丸い広場に出た。広場の地面は平面ではなく、露出した鉄骨や鉄パイプ、緑や赤のコードなどが散乱、四散し、丘を造り盆地を造り、デコボコの散らかった鉄クズの掃溜めと化している。
「敵、指揮者を確認。ここで移動を停止します」
機体内の音声によって、鉄の棺桶は機動を停止した。機体上部の装甲が山折りで開き、中から人影が出てくると天井に立ち上がって飛び降りる。
「スッゲー、焦げクサいな」
自分が巻き起こした事を他人事のように顔を顰めて、前方を見た。無造作に広がる鉄の残骸の地面を踏みながら、視線の先。平らな黄色い砂の地肌の地面に倒れている人影を視界に捉える。
「生きてるか? 生きてるよな? 話すことはできるか?」
大きめの声で呼びかけると様子を窺う。倒れ込んでいる人物は、うつ伏せのまま反応がなかった。片側の頬を地面に向け。左手を頭より先へ投げだし、右手は腰の位置にして倒れているダイニング・メッセージ的な典型的の倒れ方だった。
「ちょうどいい。相棒もいるみたいだな。だったら普通に話は出来そうだ。口、利けるだろ?利けなかったらそれでいい。続けようか」
言いながら一歩、近づく。
「オレたちはお前たちが攻撃してきたから、反撃した。それは分かってるな?」
答えは返ってこない。代わりに倒れている人物の脇でそそり立つ細いガス灯が、枯れた向日葵のように地面に向けて垂れ下げた照明を点滅させている。
「カミハ、アイツなんて言ってるか分かるか?」
「サイヲ、……あのガス灯もQCですから当然、喋れます」
自分の相棒から返ってくる答えに少年も肩を竦めた。
「なら、このまま聞いてもらうか。これから俺たちは一方的に会話を始める。なんか気に触る事でもあったら返答してくれ」
相手からの回答はないまま、話を続けていく。
「まずは……何から話そうか? ……そうだな。これにしようか? 基礎研究……って言葉についてだ」
地面に倒れている少年の手が……微かに動いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます