第3話 迷い
どこに向かってるのかも分からないまま走り続けて10分が経った。自分がおばあちゃんの家からどれくらい離れたところにいるのか分からない。でも、そんなに遠い場所ではないだろう。当たりを見回すと、ほんの数メートル離れたところに見覚えのある公園があった。小さい頃あの公園で遊んだ記憶がある。俺は吸い寄せられるようにその公園へと近づいていく。あがっていた息も、次第に落ち着いてきた。
「ねぇ、待ってよー」
幼い子供が真横を通り過ぎて言ったと同時に、背後から無邪気な声が聞こえた。
俺はふぅ、と息を吐くと公園に入る1歩手前で立ち止まる。何をやっているんだ、俺は。「ほんと、アホみてぇ」と地面に向かって吐き出す。吐き出した暴言を消し去るように足で地面を踏みならす。ジャリ、と土と土がこすれる音がして、靴の裏にほんの少し小石のジャリジャリとした感覚が伝わってくる。俺はもう一度、さっきより大きな息を吐く。俺は一体何がしたかったんだろう?何にも分からないまま、心だけ突っ走っている気がする。
公園の1歩手前のこの位置から、公園内の様子を覗き見る。開けた作りになっているので、公園にはいっていなくても、中の様子は丸見えだった。安っぽい遊具で子供たちがキャーキャーと楽しそうに声を上げながら遊んでいる。俺もあんな時代があったのか、と高一ながら年寄りじみた事を考える。公園の中央にある、あの小さな噴水がお気に入りだった。夏休みはこっちに来ている間毎日この公園に来て水遊びをしていた。時々、公園内にいた同じ年くらいの子とも一緒に遊んだ。名前も、どんな顔だったかも思い出せないが、楽しかった、という記憶だけは残っている。日が暮れるとおばあちゃんが公園まで迎えにやってきて、おばあちゃんと一緒に家まで帰る。そんな一連の流れが出来上がっていた。
ぶぶ、とズボンのポケットに入っていたスマホが振動した。誰だ、こんな時に。少し鬱陶しく思いながらスマホを取り出す。スマホの中央に、元彼女からのLINEが届いている、という通知が現れる。心臓がドキンとした。
『
何を言っているのか分からなかった。目の前の情報を処理しようと必死に文章を読み返すが、相手が何を言いたいのかが全く分からなかった。どうして1日経ってまたLINEを送ってきたのか分からないし、聞いてもいないのにわざわざ別れた理由なんて送ってこなくてもよかったではないか。それなのにこうして送ってるくのは、俺に対しての嫌がらせなのだろうか。そもそも、付き合ってる最中に好きな人がいたのなんて、全く気づかなかった。いや、別にそれに対してはなんとも思わない。そういうことだって有り得るし、元彼女が飽きっぽいのは知ってたし。だけど、こんな嫌味ったらしいLINEを送ってくるような人ではなかったはずだ。思ったことはすぐ言うタイプで、喧嘩も多くあったけれど、嫌味や皮肉を言われたことはなかった。いや、それとも、俺が元彼女の事をよく知らなかっただけなのかもしれない。3年も付き合ってきて、俺は何ひとつとして元彼女のことをわかれていなかったのだろうか。
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