人魚

しいな らん

人魚

■お題「薬」

  

 現実と夢の区別がつかなくなっている。

 今が何年の何月何日何時なのか分からない。

 カーテンを開ける、どうやら朝らしい。いつ開けたかわからない飲みかけの発泡酒で向精神薬を六錠飲む。

 発泡酒の缶が六缶とマリファナのパッケージが空いている。どうやら昨日開けたらしい。

 壁紙がグルグル回っている。マリファナの二日酔いだ。

 シャワーを浴びて洋服を着替えた。着る物が無いのでYシャツ、ジャケットにジーンズ。

 窓を開けると涼しい風が入ってきた。空が高い。高気圧で気分がいいので散歩に出かける事にする。

 フラフラと歩きながら荒川の土手まで来た。道行く人が俺を避けて通る。が、気にしない。

 デパスを一シート舌下で入れる。

 階段に座りマリファナをゆっくりと燻らす。

 川の真ん中辺りでなにか物陰が跳ねた。

 気になったので川面まで近づいてみる。

 物陰はこちらに近づいてくる。

 人魚だ。

 それは美しい女性の人魚だった。

 昔好きだった娘に似ている。

 人魚が顔を出し話しかける。

「あなたは誰?」

「俺? 俺は一体何者なんだろう」

「迷ってしまったのね」

「そうかもしれない」

「私と一緒に帰りましょう、元いた場所へ」

 俺は人魚に連れられて川へ入る。

 奥へ、奥へ。

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人魚 しいな らん @satori_arai

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