秘密の花園

世界を感じる。

サチコは真っ暗な世界に漂う。

思考は全て闇に潜み誕生しない。

1束、1束と赤い薔薇がお腹の中に入っていく。

サチコの横にはユウラクが立っている。

サチコは自分がどのような結末を迎えるかなどどうでもよかった。

ただ自らを慰めてたくて仕方がなかった。

だから仕方がない。どうしようもない。

サチコは目を開く。

花園が目の前に開かれている。

全てが赤い薔薇。

ひとりの紳士服のおじさんが花園に佇んでいる。

向こうもこちらに気づいたのか会釈する。

「こんにちは。君はなにをしにここにきたのだい」

「慰めたいのです」

自然と言葉が続く。サチコは自分はもう既にこの人生の終末を認めていることに気づく。

「そうか。慰めたいのか。君はきっといい薔薇になることだろう。

君はもう知っていることだろうが、ここには赤い薔薇が沢山ある。それは全て君のような女の子によって支えられてきたんだ。

はじめまして。私はこの花園の園長を務めています林檎と言います。よろしくお願いします」

「お願いします。私は佐藤サチコと言います」

「サチコさん。君は美しい薔薇となる。保証する。君のおかげで花園はまた賑やかになる。私はそのことが本当に嬉しいのだ。君のおかげで女の子の夢はまだ続く。幸せなことだ」

林檎は少しずつサチコへと近づいてくる。林檎はサチコの肩を掴んだ。

「じゃあ薔薇になろう」

「薔薇になると永遠で居られるのですか」

「ふむ。そうだ。君は永遠となり途絶えることはない。現実はなにもかも途絶えてしまう儚い世界ではあるが此処はそうではない。世界は圧倒的に耽美を求めているのに手放すことになれている。それはいけない。私は永遠に耽美があることを祈りこの花園を求めたのだ」

「私は永遠で居られるのでしょうか」

「ああ永遠の礎となる。永遠で居られるために必要なのだ。君が」

サチコは永遠となる道を進む。

もうなにも考えることもないし思うこともない。これ以上傷つく必要もない。

美しいまま生きていられるのだ。

そのとき胸のペンダントが光り始める。

ペンダントが浮かぶ。

サチコは目を瞬かせた。

父親が笑っている。

もちろん父親はそのとき此処には居なかったけれども、そう感じた。

サチコは意識を取り戻した。このままではいけない。一生父親と出会えなくなる。もう一度お父さんに会いたい。お話ししたい。したいよ。

サチコは本当に意識を覚醒するために強くペンダントを両手で握りしめた。ペンダントはサチコに溶けていく。

サチコは父親の愛をその両手に感じた。尚一層これからどのように生きていくのか自分自身に語りかけてくれたように思えた。

「この生き方が最善のように思えない」

林檎は驚愕する。

「君はなにをいっているのだね」

「永遠は甘美な誘いですけれども、私は途絶えてしまうことを恐れてしまう」

「途絶えないからこそ永遠であるのだぞ」

「私の春は永遠と続くかもしれない。でも私の秋や夏や冬。それ以外の形容しがたい数多の季節を凍結することの苦しみを覚えば全然生きていけるよ」

「薔薇にならないと申すのか。ここまで来ておいてそうは問屋は卸さない。あなたには薔薇になってもらいます。これは決定事項です」

「いやよ。私は選択したの。

私は薔薇にはならない。現実を生きていく」

林檎はサチコに詰め寄って肩を揺する。サチコは林檎から逃れようとするのだが、力が強く逃げられない。

一体どうしよう。どうやれれば逃げられるといの。

『少しでも助けが欲しいならば私を呼んで』

清水先生ならばなんとかしてくれるかもしれない。林檎は一縷の望みをかけて右小指の指輪に祈りを込めた。私を助けてください。

すると指輪から黒白の空間が現れて凄まじい勢いで辺りを透過し始めた。

「なんだ、なんなのだ、これは」

叫ぶ林檎にもその暴挙は及び、林檎の身体は一部ノイズ化してしまう。

白黒の空間は凄まじい勢いで全てを破壊していく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る