招待状
サチコは放課後が始まった賑わいがおさまる頃にいつも帰宅する。極力顔見知りとは出会いたくない。
サチコは靴箱を開ける。靴箱の中には一通の封筒が入っている。
サチコは目を凝らしてもう一度見る。間違いなく封筒がある。手を震わせて掴む。
強い日光が射して埃が目に映る。封筒はピンク色。
『招待状
佐藤サチコ様江』
と記入されている。
サチコは鞄に封筒をいれた。
胸がドキドキとする。
興奮する。自分も選択されてしまった。
何かの間違いではないか。
サチコは自分自身が何者なのか分からなくなる。何が正しくて誤っているのか。
嬉しいことは間違いない。特別と評されるものしか選択されないと皆んなが愚痴をこぼしていたから。
しかし一体どこへ誘われるのか。消えた内海キョウコ、ミチはそこにいるのだろうか。
サチコは頭をぐるぐると思考に費やしながら歩いていく。自分がどこを歩いているのかわからない。
「やあ佐藤さん」
溶けたクラゲが絡みついたような声が聞こえる。そいつは近づきたくもない男なのに何故か現実感を取り戻すには最適なようだ。サチコは複雑な気分になる。
サチコは学校近くの公園のベンチに座っていて目の前にユウラクが直立不動で立っている。
「運命の赤いバラは佐藤さんにも微笑んだようですね」
「一体何の話ですか」
「君は招待されたんでしょう」
サチコは信じられない。この男はどこまで危ういのか。サチコのことを知りすぎている。
「あなたって私のストーカーですか」
「僕は全世界のストーカーなのですよ」
ずけすげと不快なことを言う。
「あなたはこれからどうするのか選ばなければならない。佐藤さん。赤い薔薇の選択を課せられたわけです」
「あなた何者なの」
ユウラクは口角をあげて笑う。
「僕はただの小間使いさ。君の選択が楽しみなのです」
ユウラクは胸の赤い薔薇を摘む。
「佐藤さんの人生に祝福を」
「要らないわ」
サチコはユウラクの提供を断ったが、ユウラクはサチコの頭髪に赤い薔薇を刺した。
「あなたの未来など私には理解できています。早くこちら側に来る選択をすることを願っていますよ」
ユウラクは消えた。
サチコは頭の薔薇を掴み、潰した。
「キモい」
不愉快そうな顔を浮かべた。
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