スクールカウンセラー

ミチとクラスで仲が良かったサチコは関係各所から様々な質問が飛んだが何も答えることはできなかった。

夏休みの明けのたった1日。その1日だけでも全く奇妙な装いではなかった。それなのにどうして。

誘拐されたのか。事故にあったのか。

それとも手紙が届いたのか。

そうだとするとサチコはなんだか心が苦しくなる。

ミチは選択された。サチコよりも早く。

同級生の女の子はみんなミチには手紙が届いたと影で話している。内海キョウコのことがあったばかりだからこそ尚更だった。

学校一の美人とは違う目立たないミチが同じ道を進行したことに女の子は陰口を叩いていた。

『なんであいつが』

『私も選んで』

女の子の嫉妬が学校中に覆われていた。

ミチに対する嫉妬の空気にサチコは気が滅入りそうになる。

ミチと友人だったサチコに対してもあまりいい印象をもっていないのかイジメに近い扱いを受け始める。

サチコは教室に通うことが辛くなり保健室通いになった。

サチコはスクールカウンセラーとも話し合うこととなった。

正直言ってサチコはあまり気乗りがしなかったが、スクールカウンセラーさんがサチコと面会を求めてきた。

お昼休み後の授業中。サチコは三階の少し賑やかな二年生の教室を通過して静かな部屋が立ち並ぶ奥も奥にあるスクールカウンセラーの部屋へと訪れた。廊下は電気がついていなくて埃っぽい。部屋の前はカーテンで隠されて、柔らかなソファーが二つ置かれている。

扉の前には

『在室中』

とかわいい恐竜っ子のイラストとともに描かれている。壁には心理学や学校生活についてのプリントやポスターが大量に貼られている。

ガラガラと建てつけの悪い扉を開く。

中は外ととは違い、明るく空気がいい。部屋も清潔感をポリシーに物が整理されている。

「こんにちは」

スクールカウンセラーの先生は透明感のある女性だった。人のお話に対して親身に聞いてくれそうな雰囲気。

「こんにちは」

「ここに座ってね」

サチコは先生の指示に従って斜め前に座る。

「はじめまして先生はね清水ミチコっていうの」

「私は佐藤です」

「よろしくね」

サチコはぺこりと会釈した。

清水先生は今日の朝ごはんはパンケーキだとか趣味の山登りの話などをしてサチコは飽きがこない。

しかしそれが今回の訪問に対する大きな話題であるはずがなく次第に主題をさり気なく織り込んで来る。

清水先生はサチコとミチとの関係を知っていた。サチコは知らなかったがミチは清水先生のスクールカウンセリングを受けていたというのだ。

「あなたとミチちゃんは仲が良かったのは知っているの。だから私はあなたのことを心配しているのよ」

サチコは心の中でため息を吐く。心配されたところでなんだというのか。心配でミチは帰ってくるというのか。

サチコは愚にもつかない大人の心配を嫌悪していた。ミチは戻ってこない。サチコとミチとの関係はあの時のまま進歩することはない。それに対してケジメをつけることやもう終わってしまったこととして憐れむことは耐えられない。

サチコは首にかけたペンダントを握る。胸の中に滾る怒りを鎮めなければならない。世界に怒りをぶつけてもミチに対する全てが変化しないから。

「佐藤さん、あなたに手紙は届いてはいませんよね」

サチコは顔を上げた。

「先生、今なんていいましたか」

「手紙、届いていませんよね」

サチコは驚愕する。どうして清水先生が秘密の花園への手紙のことを知っているのか。

「手紙ってなんの話ですか」

サチコは口笛を吹きながら話を逸らした。

清水先生はふふふと笑みをこぼす。

「あなたって嘘が下手なのね。

大丈夫よ。先生も昔は女の子だったのよ。

秘密の花園への招待状ぐらいは知っているわ」

「昔からあったんですか」

「あったわよ。女の子の夢ですもの。残念ながら先生は招待されなかったけれども佐藤さん。先生は佐藤さんのように大切な人を奪われたのよ」

もちろんミチが確実に手紙が届いたなんて誰も確証はもてない。嘘か真か確かめようのない噂だけがあるだけで。

サチコは清水先生に他の大人とは違う親近感を覚えた。清水先生は自分と同類のように思えた。

サチコはペンダントを強く握る。

「先生はそれでどうやって向き合っているんですか。大切な人を奪われて、そしてそれからを」

「いつまでも覚えているわ。忘れないの。世界中がその人のことを忘れても私だけが覚えているのよ」

それって辛くないですか? サチコは胸に浮かんだ言葉を清水先生に伝えなかった。

「あなたにはこれをあげるわ」

白い机上に指輪が置かれる。

「私もつけているの。これを右手の小指に掛けていれば大切な人がいつまでもあなたを見守ってくれるわ」

正直怪しい代物ではあるがサチコは拒否せず小指に掛けた。これを掛けていれば何か変わるかもしれない。そのような希望にすがった。

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