父と祖母

サチコはいつも首にペンダントをかけていた。

よく友人からはからかわれる。あなたにはどのような趣味の男がいたのですかって。

ペンダントは灰色のなんてことない石で、普通の高校一年生がかけるような代物ではない。

ペンダントは父親からいただいた。

父親ははるか昔に旅に出かけて帰ってこない。

『僕は本当に大切な運命を手に入れるために君から離れるよ。

だからこれは僕がいなくても君が大人になるまで生きていけるようにおまじないを込めた石。

女の子は誰でも守ってくれるナイトがいるのだから』

サチコが最後に父親から聞いた言葉は、いつまでもサチコの胸に響いている。


「そりゃああんたのことが好きなんだよ」

祖母はサチコを豪快に笑い飛ばした。

「そんなあんなキモいやつに好かれても嬉しくない」

サチコは祖母に今日会ったことをお話しする。老人ホームにいる祖母はサチコの話をとても愉快そうに聞く。サチコは祖母のことが好きだった。

「馬鹿だね。女ってやつはいい男の養分全部吸い取って生きていくもんだよ。それぐらいの器量無くしてどうやって楽しむ人生を」

「そんな大きな話にされてもなぁ」

「馬鹿だね。優雅な生活を送るためには若き頃にどれほど男を使いこなせるかにかかっているんだよ」

「ううう」

そんなことを言われるとユウラクのことを意識してしまう。底なし沼と形容しても違和感のないユウラクの印象を思えば溜息を吐くしかない。人の感情というのは怖い。そっちに行けば悪く染まる世界へと簡単に落ち込んでしまうのだから。

「いたっ」

祖母はサチコの頭をコツンと叩いた。

「馬鹿だね。女はやさしく気高く。されど形に拘らずに猪突猛進することよ。

サチコには今や二人も想い人よ。恋多き女となる歳を迎えたわけなのだから思う存分身も心も楽しみ尽くしなさい」

祖母はやさしく微笑んでいた。

「楽しみ尽くしなさいって…、うん、いや、頑張るよおばあちゃん」

祖母には敵わない。サチコは苦笑いを浮かべた。

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